山響だより④ 「山響の家」にやってきた看護学生たち | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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山響だより④ 「山響の家」にやってきた看護学生たち NEW

2026.11.01

鈴木 サナエ(すずきさなえ)

  愚図ついた天気の続いた9月、珍しく好天予報のこの日、60数名の看護学生が九州の福岡からはるばる只見町へやってきた。未来の看護師さんを迎え入れたのは地元の10数軒の農家民宿。我が家の「山響の家」にやってきたのは、若さの中にも、しっかりとしたものを持っている、そんな印象の5人の女性たちだった。これから二泊三日、正に寝食を共にする。

 家に着いて、改めて自己紹介をすませると、まず近くの保養センターにお風呂入りに行ってもらった。なかなか帰ってこないと思ったら、どこの農家民宿も保養センターのお風呂なので、順番待ちだったそうだ。すぐに夕食の準備に取り掛かる。夕食は発芽玄米入り栗ご飯、イワナのジュウネンオイル焼き、トマトピューレの実だくさんスープ他の只見の食材を使ってのレシピ、どれもこれも「美味しい、美味しい!」と、残さず食べてくれる。

 夕食の後片付けも終わった後は、話し合い。ユネスコエコパークの自然と人間生活の共生という理念、そして只見の自然のことなどを話した後で、どうして看護師さんを目指すのかを聞いてみた。一人は一度社会経験のある女性で、報道関係の仕事をしていたが、今、現実につらい目にあっている人にマイクを向けるのが、とてもきつかった。もう少し、人に寄り添う仕事をしてみたくて、看護学校に入りなおしたのだという。この話には、皆、差し挟む言葉もなく聞き入った。この話を聞いた一人は、就職の心配やお金の心配がないことが看護の道に進んだ理由、と言ったことを恥じ入っていたが、とんでもない。時には、過酷な場にも遭遇しなければならない看護師さんを目指すだけで充分尊敬に値する。そんな話を交わしながら、それぞれが、しっかりした考えを持っていることに感心した。

 翌日は朝食の後、畑仕事をお願いした。苺を植えなければならない日も近いのに、二畝ある畑は、見る影もなく雑草に埋もれている。その雑草を取り除き、マルチをはがして、ついでに残っている苺の苗も取り除くのに、五人の若い力にかかれば、大した時間も掛からなかった。そして「ここを耕していいですか?」と有難いことを言ってくれる。鍬とスコップを用意して、苦土石灰と小糠を撒き散らし、硬くなった畑を耕してもらった。久しぶりに陽を浴びた畑もどこか嬉しそうに見えた。耕し終わった後、まだ時間があるので、隣のサツマイモを掘って食べようと、試し掘りをしたら、意外と大きい。ここで、肉体労働が好きな人は芋ほり、疲れた人は昼食の準備を提案したのだが、皆、「肉体労働が大好き!」と言って5人とも芋ほりをすることになった。何とも頼もしい未来の看護師さんたちだ。

 少し遅れた昼食はぼた餅を作った。衣服が汚れているので外で食べたいという。即席のテーブルを用意して、コンクリートの上に座って食べている。今どきの人たちは、ぼた餅は主食ではなく、おやつにしか思っていないが、只見ではまだまだ立派な主食だ。自家製小豆のあんこと、只見で採れた大豆の黄な粉の甘さは、疲れた身体にやさしく染み入ったことだろう。

 昼食後、少し休んで、今度は近くの田子倉館に行った。ここはダムに沈んだ田子倉集落の歴史や文化を伝える民俗資料館である。説明を受けながら案内して頂いた後、ゼンマイ綿でストラップ、ブナ材でキーホルダー等の体験コーナーで思い思いの物を作ってみることにする。その後、畑仕事のご褒美に、シャクヤクの花の粉をふりかけた綺麗なソフトクリームをほおばる。只見のシャクヤクの根っこは漢方薬の原料になるので、かすかに苦みのあるこの味をしっかり覚えておいて欲しい。

 さて、夕食は只見名物「マトン焼き」。美味しさには自信があるが、それにしても初めて食べるマトンに、一口食べて「美味しい!」と叫んでいる。カボチャやサツマイモ、キャベツ、ナスにピーマン、どれもこれも只見の食材を使えるのは嬉しい。マトンならではのしっかりした食感、旨味は若い彼女らの心もしっかりつかんだようだ。笑い声の絶えない会話がいつまでも続いていた。

 翌朝早く、彼女らは見違えるように綺麗にお化粧をし、身支度を整え、帰っていった。「もっと居たい」と、名残惜しそうにつぶやく学生もいる。あれもさせたい、これもさせたかった、と思うばかりだが、そんな声を聞くと、心底よかったなと思える。もうすぐ彼女たちは病院での実習に入るのだという。不安もあるだろうが、これから先、美味しいものを食べて、まず健康で、明るく過ごしてほしいと、手を振りながら見送った。