【風・奥会津③】奥会津に生きる~Be here now | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【風・奥会津③】奥会津に生きる~Be here now NEW

2025.06.15

鈴木 サナエ(すずきさなえ)

「奥会津ミュージアム」という、建物を持たないネット上のミュージアムが産声をあげて、3年になろうとしている。それは、過疎と高齢化にあえぐ今、奥会津に生きる人々の声を丁寧に拾い上げ、未来につなげていこうという、小さいけれど壮大な夢を持ったミュージアムだ。私はその中の「奥会津に生きる」というコーナーで、大好きな山登りにまつわること、山野草や雑草のあれこれ、日々の暮らしの中で思うこと等々、雑多なことを書かせて頂いている。

 そもそも、奥会津に生まれ育った私が、「この地に生きる」と迷いなく言い切れるようになったのは、そんなに遠い昔でもない。書くことがとても苦手な私が、件のコーナーに書かせて頂くことになったご縁から、まず書いておきたい。
 今年の冬は、特別豪雪地帯の只見にあっても滅多にない積雪3メートル超えの大雪だった。郡山で働いている孫は、職場で「只見に縁がある」と言ったら、「あそこは人が住む所じゃない」と言われたのだそうだ。「えっ」と一瞬ひるむけれど、大方の人はそんなふうに考えるのも無理からぬことかとも思う。大雪は大変と言えば大変な生活なのだけれど、どこかで「これが只見だもの、当たり前だよな。ここには縄文の昔から人は住んでいたんだから。」と事もなげに言っている自分がいる。どんなに雪が降ろうが、どんなに嵐のような風が吹こうが、不安なく「ここに生きる確かさ」を教えて下さったのは、一人のお坊さんだった。

 50代が目前に迫っていた当時、私は小さなことにもグズグズと際限なく思い悩むことが多かった。そんな時に、この風変わりなお坊さんに出会った。何も知らないくせに、仏教にも興味津々だった私は、「如是ってどういうことですか。」と尋ねてみたが、最初は全く取り合っては下さらなかった。海外生活の経験もあるという、田舎にしては異色なお坊さんだった。いつも、多くの仲間たちと音楽や映画、読書等々を楽しみ、語り合い、行動を共にしておられた。「京都議定書」が定められた時は京都に滞在していたとも聞く。また「こんなに地震の多い国で原発なんて」と、常に反対の立場を口になさっていた。時間があまりとれない私は、そんな仲間の一人に加えて頂こうと、必死になってついていった。
 二年程経って、お坊さんが只見を去られる時、勇気を出してもう一度「如是とは?」と尋ね、返して頂いた言葉が「Be here now」という言葉だった。幾度も繰り返しかみしめていると、思い煩っていた何かが吹っ切れて、以来、生きることがとても楽になっていった気がする。
 今、思い返してみると、あのお坊さんの行動のすべてが「Be here now」に繋がっていたように思う。そして私は、今でもここ只見の地で、「今を生きる」ことを日々体感している。

「月刊会津嶺」2025年6月号より転載