柳津町文化財専門アドバイザー(やないづ縄文館)長島雄一
奥会津の縄文文化をどうやって後世に伝えていけばいいのか。これは約3年前、柳津町石生前遺跡の遺物整理を開始して以来の重要課題でした。町の方々からは「柳津町にはこんな宝物があるんだからな、放っておくのはもったいねえよな。」という声を何度かお聞きしていたこともあり、展示はもちろん、それ以外での伝達方法も考えるべきであると感じていました。
出土資料の整理をしてゆく過程で、以前勤務していた福島県立博物館で実践していた「学社融合」「学社連携」・・すなわち学校が社会の教育力を活用する、また生涯学習施設と学校が連携した実践活動(「出前授業」「アウトリーチ・プログラム」)とその効果を思い出していました。博物館の展示室で、ガラス越しで困惑している盲学校の子供たちに出会い、館側から盲学校に出向いて実物に触れてもらいたいと思ったことが「出前授業」を始めたきっかけでした。その後、約2年間、県内から出土した土器や石器を車に積んで、計21の小学校や、念願であった盲学校、幼稚園、国立磐梯青少年交流の家などに出かけ、実物を教材とした縄文の授業・講座を行いました。「現ブツ+専門家=感動力」とは、郡山市内の小学校の授業を参観した、あるジャーナリストの感想です。
出前(アウトリーチ)というスタイルではありませんが、柳津町立会津柳津学園中学校と「やないづ縄文館」は、2022年から今年にかけ、授業の一環として、縄文館を活用した学習活動を行っています。町内から出土した縄文土器をはじめ、土偶・石器などの遺物を使い、館の学芸員が解説し、生徒からの質問に丁寧に答えるなどして学びを深めています。地元に密着した施設ならではの取り組みです。
1・2年目にあたる2022・23年には、予め柳津町の遺跡に関して生徒一人ひとりから質問を提出してもらい、縄文館での実施日には展示と関連付けながら、それらの質問に答える形で授業を行いました。また普段入る事のできない土器収蔵庫にも入り、実際に縄文土器を手に取って、手触りや重量を感じたりする体験もしてもらいました。さらに授業の後半には、黒曜石の原石を割り、剥片で魚をさばく実演を行いました。
子供たちは目の前で見た黒曜石の鋭い切れ味から、地元では入手できない遠隔の地のものを求める→「交易」の発生ということに気付いてくれたようです。
3年目の今年は、学校側からの提案で、町内の池ノ尻遺跡から発見され、全国的に大きな話題となった「人体像把手付土器(土偶付土器) 愛称:イケちゃん」を深く掘り下げることをテーマとしました。各班に分かれて縄文館でイケちゃんなどの展示を観察し、疑問を学芸員にぶつけ、後日、自由な発想で自分たちの考えを学校で班ごとに発表しました。
生の資料(モノ)と、資料を熟知した学芸員(人)が揃って初めて、博物館・資料館などの生涯学習施設は本当の魅力・威力を発揮する。この3年間の試みはそれを裏付けるものではなかったかと感じていますし、今後も学校と縄文館の連携と交流を深めていきたいと考えています。
県立博物館やこの3年間の実践を通して感じている大切なことの一つは、学校と施設の関係、特に授業主体者である学校側が、文字通り主体者になる、という点です。施設側に丸投げではなく、教育活動の主体である学校側が授業の狙いを事前に施設側にきちんと伝え、施設側はそれを受けて、狙いを達成するために何がサポートできるかを考え準備する。こうしたスタンスを互いが理解しつつ進めないと、効果的な「連携」「融合」には至らない、というのが自分の経験から感じていることです。学芸員の話を聞いて終わり・・は実に簡単ですが、あくまで授業を作り上げるのは学校です。
その点で、会津柳津学園中学校の授業は、この3年間で変化しました。1年目の「学芸員お任せコース」から、自らテーマを設定し「人とモノ」を活用して深く調べ、考え、発表する活動へと大きく進化しています。これは担当した社会科の先生の意識の変化によるところが大きいと感じています。こうした積み重ねが教員としての成長にもつながっているとすれば、館として望外の喜びです。
「奥会津を伝える」というテーマから後段、少し逸れてしまいましたが、どのような形であれ、地元の資料を使って、子供たちが地元への関心を深めていく。それが学校や生涯教育の施設でもある博物館(特に市町村立)などの大きな使命と考えています。子供たちに生涯学習の入り口に立っていることを、この施設で感じ取ってもらえたら、ありがたく、うれしいことだと思います。