冬支度 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

冬支度

2024.12.15

鈴木 サナエ(すずきさなえ)

 11月29日、ついに初雪だ。例年なら家の前から見える姿のいい柴倉山にしっかり雪が降ってから、次第に里に下りてくる。今年はその柴倉山に2度ほどうっすらと雪が積もっただけだったから、ついうっかり冬が近いことを気にとめなかったが、もう師走がすぐそこまで来ている。暖冬の秋らしい、びちょびちょのみぞれ雪を眺めながら、これからやらなければならないもろもろが、頭の中を駆け巡っていた。

 庭の樹の冬囲いは、個人の業者に頼んで終えているし、家の周りの冬囲いは娘たちが来て、やってくれた。それでも、まだ畑の野菜の収穫を終えていない。畑にはまだ、小さな二種類の大根や、よく巻いていない白菜、育ちきれていないターサイ、初めて作ったカツオ菜等が青々と並んでいる。ブロッコリーはまだまだ収穫できそうにないから、このまま畑で冬を越すことにする。
土のついた大根やまる漬けにする白菜は、道下にある「清水場」まで一輪車で運んで洗う。昔はこの清水場は秋になると、順番待ちする程にぎわったそうだが、もう何年も前から、使っているのは私一人になってしまった。外の空気がどんなに冷たくとも、コンコンと桝に溢れ出ている清水は、やんわりと温かく、手も身体も冷えることがない。家のすぐ近くのこともあって、今でもここを利用して洗っている。
 小さな平べったいターサイは根っこがついたまま収穫し、発泡スチロールの箱に土を入れ、きっちりと植えた。今どきの青菜は他にないから、とても有難い。根雪になったら車庫にでも入れることにして、とりあえず軒先に置くことにする。
 カツオ菜は娘が買ってきてくれた種で、初めて聞いて、撒いてみた。先日、佐賀生まれの男性が、鰹のとれないお正月のお雑煮に入れて出汁にした、と教えてくれた。とても香りがよくて美味しいから、それも頷ける。来年のために、小さいのを少し畑に残しておくことにする。

 さてさて 野菜の準備ができたら、本番の漬物漬けが始まる。まずは、乾いた樽に水を張ったままにして一晩ほど置くと、水もれもしなくなる。木製の樽は姑もお気に入りで、今でもいくつもあって、これも持て余し気味だ。白菜は大きいのは四つ割り、小さいのは二つ割りにして、洗って少し陽に当てる。今年はこれにターサイや名前もわからない青菜も加え、いったん塩漬けにして、水が上がったら本漬けにする。本漬けには、細く切った昆布、南蛮、あれば小さく切った柚子の皮も加え、これに甘党の我が家は必ず甘酒を入れて漬け込む。水上がりの悪い場合は塩水を差している。
 もうそろそろ干しあがった沢庵大根も本漬けにする。舅は、40本余りの大きな大根を器用に縄でくくって干していたが、私はベランダにゴロンと寝かせて、たまに裏返しにするという横着さだ。今年は普通サイズを15本だけだが、それでも食べきれないかもしれない。大根を測ってほぼ4%の塩に、炒った小糠、沢庵漬けの素の「醸源」、ザラメ砂糖、黄色い色付けの粉は控えめにして、やっぱり甘酒を入れる。柿の皮を敷いて、大根を並べ、隙間にはよく洗った菊芋を入れる。水上がりの悪い場合は、やはり塩水を加える。黄色い花を咲かせるこの菊芋を、只見ではアメリカ芋と呼んでいるから、外来種なのだろう。畑の隅に植えておくと、絶やすのが大変なほど繁殖力も強く、ほっておいても大量に採れる。それだけ身体にも能く、特に血糖値を下げ、糖尿病に効果あり、と聞いている。そして何より、シャキシャキと歯触りがよく、美味しい。今では本命の沢庵よりもこのアメリカ芋の漬物が食べたくて沢庵を漬けている。

 野菜類の本漬けが終わると、いよいよ魚類の漬け込みが始まる。今の季節になると、只見のお店には1キロ入りのニシンや、6匹、8匹入った箱入りのホッケが店頭に並ぶ。遠く、北前船で北海道から新潟港へ入り、六十里や八十里の峠を通って運ばれたであろう身欠きニシンなのだが、今では時々外国産のも見受けられる。いくら世界の名だたる豪雪地帯の只見でも、除雪体制が整い、陸の孤島になることはないのだけれど、冬にはやっぱり味がしみこんだニシンやホッケ、それに一緒に漬け込んだ少し酸味のあるキノコの保存食が食べたくなる。夏の土用前に採って保存して置いた山椒の葉や、塩、甘酒で漬け込んだニシンやホッケ漬けは、西京漬けや紅葉漬けといった均一な上品さはないけれど、作る人それぞれ微妙に違う素朴な味がするし、漬け込んだ日数によっても味は違って、正に手作りの豊かな味だ。勿論お客様にも喜んで頂けるし、遠くに住む只見人にとっては、何よりのお土産となる。時には鮭をつけこむこともあったし、サンマなども漬け込む家もあるが、我が家ではニシンとホッケだけは私が嫁してこの方、一度も欠かしたことのない冬の味覚だ。

 12月の5日、二度目の雪で、翌日は今年初めて道路を除雪車が通った。この後の天気予報はほとんどが雪だるまマークだから、これが根雪になるのだろうか?それにしては何とも雨気が多かったり、フワフワだったりの雪がちらついている。昔はしっかりした雪が20㎝ぐらい降り、消えることを2~3回繰り返し、クリスマス寒波によって本格的な根雪になるのが普通だった。去年の雪は極端に少なかったし、やはりこの降り方も地球温暖化の影響なのだろう。とはいえ、温暖化によって、雪が毎年少ないわけではなく、今年は大雪の予想だという。家の周りの消雪設備の点検を急がなければならない。