山行記⑫ 平ヶ岳 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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山行記⑫ 平ヶ岳 NEW

2026.08.15

舟木 志子(ふなきゆきこ)

 平ヶ岳は、新潟県魚沼市と群馬県みなかみ町の境に山頂がある2141m峰で、日本百名山になっている。ルートは中ノ岐コースと鷹ノ巣コースがあり、いずれも新潟県側から登る。
 中ノ岐コースは、現在の天皇陛下が皇太子時代に登頂された際に整備された登山道で「プリンスルート」と呼ばれている。登山口まで自家用車では行くことが出来ないが、新潟県の銀山平の民宿などに泊まると、宿泊者限定で中ノ岐登山口までマイクロバスで送迎してくれるそうだ。そこからは往復で約6時間と比較的登りやすいコースだが、国道とはいえ細く曲がりくねったダム沿いの道の運転と、宿泊先の予約など、登り始めるまでのハードルが高い。

 一方の鷹ノ巣コースは、檜枝岐村から国道352号線を新潟方面に行き、尾瀬御池から30分ほど車を走らせると登山口がある。このコースは純歩行時間(休憩時間を含めない、歩いている時間)が11時間から12時間となっており、通常ならば山中で1泊するのが妥当なコースだが、途中に山小屋やテント場など泊まれる場所が無いため、日本百名山の日帰り最難関と言われている。また、こちらの方が先に登山道の整備がされたことから「クラッシックルート」と呼ばれたりもする。

 さて、この平ヶ岳なのだが、山頂付近の広大な高層湿原や池塘(ちとう:高層湿原などに自然にできた小さな池のこと)そこに咲く花々などがとても素晴らしいと聞き、以前から一度は登ってみたいと思っていたのだが、日帰り最難関というワードが頭をよぎり、なかなか踏み出せずにいた。しかし経験者などから色々情報収集すると、日の長い時期に早朝から登り始めれば何とか行けるのではないかと考え、鷹ノ巣コースからチャレンジすることにした。
 計画は、自宅を前日夕方に出発して登山口駐車場にて車中泊し、朝3時のまだ暗いうちに登山開始。山頂に10時まで到着出来たらその先の卵石まで足を延ばす。それより遅くなれば11時の時点でどこに居ても引き返し、16:00までに下山することにした。今回は体調や天候によっては途中で撤退することも考慮し、ソロで行くことにする。

三連休最終日の7月20日、この日だけ何とか天気が回復するとの予報のためか、駐車場はたくさんの車が駐車していた。2:30に起床し朝3:00に予定通り出発。ヘッドランプを頼りに歩き始める。暗いうちから歩き始めるのは初めてだが、意外にもヘッドランプが足元をよく照らし、歩くのに支障はない。30分ほどは緩やかな登りだがその先は本格的な登りとなる。涼しいうちに高度を稼ぎたいと思ったが、日の出前なのに湿度が高く蒸し暑い。その上急登が続いて息が切れ、なかなか足が前に進まない。次第に東の空が白み始め、徐々に明るくなってくる。後から登ってくる若者たちが次々に先を行くのを見送りながら、自分のペースでゆっくり登る。下大倉山まで来ると勾配は少しだけ緩やかになり、しばらくはアップダウンを繰り返すが、その頃には太陽も出始め、さらに暑さが増す。その先の池ノ岳手前ではまた急登となり、1時間ほどしっかり汗を絞られる。

 9:20ようやく池ノ岳に到着。

池ノ岳から池塘越しに平ヶ岳を望む

 出発から6時間以上かかったが、そこでの景色は想像以上だった。広い高層湿原とのどかな池塘群。緑の湿原にキンコウカという黄色い夏の花が群生し、青い空と白い雲に映える。左手には平ヶ岳山頂。ようやくその姿を見ることが出来た。木製の休憩場所があり、プリンスルートを登って来た方がたくさん休憩されていた。私は、自分で設定した時間を少しオーバーしそうだったので、ザックを下ろさず平ヶ岳山頂を目指す。10時ちょうどに山頂に到着する。広がる高層湿原の素晴らしさと山頂まで来た達成感は、言葉にできない。感無量だ。

 10分ほど休憩し気持ちを落ち着かせ、卵石まで行くかどうかを冷静に考える。ここまでの大変さを思うと、ひょっとしたらもう2度と来られないかもしれないと思い、時間的にはギリギリだが、足を延ばすことにする。
途中のコバイケイソウという大ぶりの白い花の群生は、遠目から見ても大地の一部が真っ白に見えるほどの大群生で、感激する。そこから卵石までの道のりは、新潟の山々が美しい。卵石と呼ばれる丸い大石を写真に撮り、満足して引き返す。

 卵石

 池ノ岳に戻り今度はザックを下ろして休憩する。登山靴とソックスを脱ぎ、足を開放すると、一気にリフレッシュできる。空は青空と雲が半々くらい。時折雲が太陽をさえぎってくれるし、暑いとはいえさすがに2,000mを超えると風がさわやかだ。この時間でもまだ登ってくる人が居て少し安心する。12時少し前に平ヶ岳に別れを告げ、登山靴の紐をきつめに調整して下山開始する。

 下山では転倒などの事故が起きやすいが、特に今日は早朝から歩いているため、意識して気を付け、休憩を挟みながら下山する。登りでヘッドランプを照らしながら歩いた道は、思いのほか切り立った細尾根で驚いたりしながらも、16:30明るいうちに登山口にたどり着く。

13時間半の大冒険。写真で見るよりも何倍も素晴らしい景色に感激し、こんなに長く歩けるのだと少し自信になった、大満足の山行だった。

コースタイム 3:00鷹ノ巣登山口出発 10:00山頂着 11:00卵石着 16:30下山