舟木 志子(ふなきゆきこ)
田代山(たしろやま) 帝釈山(たいしゃくさん) 6月10日
田代山と帝釈山は、いずれも福島県と栃木県の県境に位置する山で、どちらも福島百名山であり、栃木百名山にもなっている名山である。田代山は山頂に広大な湿原のある標高1971mの台形の山で、プリン山の愛称を持つ。その隣の帝釈山は、かつてはたどり着くのが困難なため「幻の深山」と呼ばれた2060mの名峰。両山とも尾瀬国立公園に包括されており、自然環境が手厚く保護されている他、登山道もよく整備されていて歩きやすい。登山口は南会津町舘岩(たていわ)地区の「猿倉(さるくら)登山口」と、檜枝岐村側の「馬坂(うまさか)登山口」があり、どちらにも駐車場とトイレが整備されている。
また、この山域は山頂付近に降った雨が日本海側と太平洋側に分かれる分水嶺に位置しているため、多様な植物が楽しめる。登山道にも山頂の湿原にも、この時期はたくさんの花が咲いていて、平日でも多くの登山者でにぎわう。
ここ数年、私も毎年のようにこの山に登るのを楽しみにしているが、今年は雪解けが早かったので、いつもより少し早い6月10日に友人とこの山に登ることにした。今回は猿倉登山口から登る。登山口までは未舗装の個所もあり、数年前は登山口にたどり着くまでが大変だったが、年々道も整備されてきて随分運転しやすくなった。
登山口から、まずは田代山を目指す。登り始めはけっこう急なので、調子が出るまではゆっくり歩く。登り始めるとすぐに紫色のラショウモンカズラが出迎えてくれる。その先には真っ赤なベニサラサドウダン。途中に何ヶ所か、倒木などを活用した休憩できる場所があり、腰を下ろして水分補給しながら登る。白いゴゼンタチバナやミツバオウレンが登山道の両脇を彩る。ゴゼンタチバナは六枚の葉の上に四枚の真っ白な花弁を付けた小ぶりな花だ。咲き初めの花はまだ花弁が緑色で、初々しい。歩みを進めると小田代に出る。山頂手前の小さな湿原だが、ヒメシャクナゲ、タテヤマリンドウ、イワカガミ、チングルマなどが密に咲いており、どの花も状態が良い。ヒメシャクナゲはピンク色の小さな丸い花が、一つの茎から数個出ていて、とても愛らしく、大好きな花だ。

たくさんの可愛い花たちに癒されて、もうひと頑張りすると、ほどなく山頂の田代湿原に到着。ここが山頂かと思うほど広々としている。小田代で見られた花々が、こちらでもたくさん咲いている。湿原保護のため木道が整備されているので、踏み外して植物を踏んでしまわないように気を付けて歩く。
天気が良ければ、湿原の先に広がる、残雪の残る会津駒ケ岳方面の山々が美しいのだが、この日はあいにくガスがかかっていて眺望は無いが、ワタスゲがガスの中で幻想的に揺れていて、とても美しい。ワタスゲは、タンポポの綿毛を白く小さくしたような感じで、群生している様子は、メルヘンの世界のようだ。

田代山の山頂を過ぎると、弘法太子が祀られているお堂兼山小屋とトイレ棟がある。その裏手にはミツバオウレンの大群生があるのだが、友人はこの花に会いたかったとのことで、そのボリュームに感激し、しばらく撮影タイムとなる。その後は尾根沿いに帝釈山を目指す。いったん標高を落とし、針葉樹がメインの少し薄暗い樹林帯を歩く。この道には、日本固有種と言われるオサバグサが群生することで有名なのだが、オサバグサとは、葉が、機織の時に経糸を入れて揃える道具の「筬(おさ)」に似ていることが名前の由来とされる。花は小さく白く下向きで、1本の茎にたくさんの花をつける。福島県で絶滅危惧Ⅱ類に指定されているとのことで、帝釈山でも少しずつ少なくなっていると聞く。残念なことだ。
山頂が近くなると登りに転じ、今度は岩場を登る。アヅマシャクナゲが咲き始めで良い色だ。安全のため、短いアルミのはしごが数か所設置されていて、岩場でも安全に昇り降りできる。こちらの山頂は、天気が良ければ、大変眺望が良く、会越国境の山々や日光方面、那須方面、もちろん会津の山々も眺められるのだが、この日は心の目で山々を眺めながら昼食をとる。
帰路も存分に花を楽しみながらゆっくり歩き、15:00に下山する。同じ山には何度も登らないと言う人もいるが、何度来ても少し時期がずれるだけで、また天候が違うだけで新しい発見があるので、私は好きな山は何度でも行きたくなってしまう。この日も沢山の花々と一期一会の出会いがあり、楽しく充実した1日となった。

コースタイム:7:20猿倉登山口 出発 9:30田代山山頂 10:50帝釈山 12:30田代山避難小屋 14:55 猿倉登山口 到着