思い出を継ぐ吊るし雛 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

思い出を継ぐ吊るし雛

2024.03.15

井口 恵(いぐちめぐみ)

角田信子さん(昭和32年生 三島町)

2021年10月、角田信子さんに女の子の孫が生まれた。
信子さんは、母親の実家から貰ったピンクや赤の布をふんだんに使って、名前に入った「桜」の花をたくさん入れた吊るし雛を贈った。
コロナウイルス感染症の影響もあり、去年やっと一緒に初節句のお祝いができたと嬉しそうに話してくれた。

五穀豊穣を祈願するネズミ
飛躍を祈願するウサギ
邪気払いを祈願する桃
円満な暮らしを祈願する毬
健やかな成長を祈願するはいはい人形(這子)・・・
「簡単なのしかできないのよ~。でもやり始めるとノリノリで、夜まで時間を忘れてやっちゃうの」
それでも一日に作れて2~3個ほど。丁寧に大切に、ちょっとずつ作りためていく。

定年後から吊るし雛を始めると、あちらこちらから着なくなった着物や、使わなくなった反物が信子さんのもとに届くようになった。そのため材料には事欠かない。
「貰った布がどんどん溜まっちゃう。だからずーっと楽しみがあって、終わらないの。好きなことばっかりやってるから、ストレスなんて溜まらないのよ」

近所でお世話になった方は、踊りが大好きだった。
その方が踊りの時によく着ていた着物を使った吊るし雛を娘さんにあげると、たいそう喜んでくれたという。
「布を貰ったらそのままにしておけないから、何かしら作って返してあげるの」
送った人から「この布見たことあるー」と喜んでもらえるのが、嬉しいのだ。
作っている時、信子さんは着ていた人の思い出に触れ、貰った方は信子さんの想いと共に、大切な人との時間を思い出す。
主を失った着物は、形を変えて次に繋がる。

「昔から小豆ひとつ包める布があれば、もったいないからとっておくように言われたの。それを探して集めて、色のバランスを見ながら組み合わせて。ひとつの作品ができると嬉しいわよね」
贈り物を作る過程には、いつもどこかに贈る相手の存在がちらつく。
ちくちくチクチク、ひとつひとつ作るのは、時間も手間もかかる。
人生のひと時、貴重なひと時に、贈る相手を思って作った大事な時間。
「上手ではないけど、一体一体癖や個性があって、表情があるみたいで楽しいでしょ」
完成された美しいもの、整ったものを購入するのは簡単だ。
しかし、贈る相手に向けられた作り手の想いの大きさは、何にも代えられない。
信子さんの想いのこもった一針で、これまでを生きてきた人と、これからを生きる人が繋がる。
華やかに吊り下がる願いの数だけ、健やかに、大きくなーれ。