【わっさな暮らし】懐かしさの交流 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】懐かしさの交流

2024.01.15

井口 恵(いぐちめぐみ)

赤城トシ子さん(昭和13年生 柳津町)

福満虚空蔵菩薩 圓蔵寺に続く商店街で、駄菓子屋さんを営む赤城トシ子さん。

ストーブを囲んだお茶のみスペースの横で、長年商店街を見守ってきたのがさくら家の番頭をするトシ子さんだ。
さくら家は、トシ子さんがお嫁に来た家の先々代から始まった。
戦後義祖父が練羊羹、カステラ、パンなどを扱う菓子店を構え、義祖母は風呂敷にヘラ、箸、お椀などを包んで背負い、近所の旅館を行商していた。
その後義父母の代になると圓蔵寺本堂前にもお店を構え、お土産屋として賑わっていった。
「25歳でお嫁に来た頃は、柳津町は温泉街でもあったし、圓蔵寺に詣でる参拝観光客が増えて、それはそれは忙しかった。従業員も雇って、東京まで仕入れにも行っていたのよ」
トシ子さんの代になると、圓蔵寺前で店番傍ら、夏はところてん、冬は味噌おでんを売っていたそうだ。
「『ばぁちゃん、また来年来るから、元気でいろよー。』って言ってもらえるのよ」
日々行き交う参拝客と他愛ない冗談を交わし、ふんわりとした心地よい時間を共有する。
それはほんのひと時のやり取りかもしれないが、きっと旅路の思い出として刻まれる。

20年ほど前、商店街にあったお土産屋の店舗を駄菓子屋に改装した。
お店の内装はすべて息子さんの手作りで、大人が、自分が子供だった頃の目線で陳列した色とりどりの駄菓子は、ワクワクと心が躍る。
意外に、お客さんは子供よりも観光で来た大人が喜ぶそうだ。
確かに、決して飾り気のない多少奥まった店構えは、何とも言えない懐かしさ、安らぎのようなものを纏っていて、ふっと引き込まれる。
“かつての子供”がついつい興奮して、しばし時を忘れて無邪気になれる空間が、そこにある。
「一瞬、子供に返ったでしょ?」
番台でおっとり微笑むトシ子さんの存在に、手にした駄菓子から記憶が蘇り、ついつい自分の昔話を聞いて欲しくなる。
昭和を感じる建物の中にこざっぱりと並べられた駄菓子と、番台にちょこんと座るトシ子さんの姿には、どこかタイムスリップしたような錯覚が起きる。
お客さんはただ商品を購入するだけではなく、駄菓子とさくら家の空間を介してたくさんの思い出に触れる。
観光で来た新しい土地で、懐かしさを覚える体験をするのかもしれない。
なぜか愛おしい、心安らぐ空気が漂う、不思議な力を持った場所だ。

「全然儲かるような仕事でないわ。でも、商売が楽しいのよ。ここにいれば、色んな人が来てくれて、おしゃべりができるでしょ」
初めて出逢った人から、ぽろりと語られるその人の物語。
何ということもない小さな小さな記憶の断片でも、ふと誰かと共有したい衝動が起きることがある。
そんな店先での出逢いが、トシ子さんにとっての生きがいとなっている。

ひっそりとした空間だが、いつも同じところに同じ人がいる安心感。
穏やかに座る、人懐こいトシ子さんの存在に、きっと癒される人がいる。
移ろい行く街を見守りながら、訪れる人に見守られながら、今日も5玉のそろばんを前に番台に座る。