【わっさな暮らし】 健やかでごきげんに | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】 健やかでごきげんに 

2023.10.15

井口 恵(いぐちめぐみ)

藤原啓祐さん(昭和40年生 南会津町)

「『なんかええ感じ』にしたいねん」。
思わず手に取りたくなる、触るとふっと心が落ち着く、なんだか心地よい、そんな器。
大阪出身で福島に来て30年、南会津に来て20年になる木彫漆芸作家の藤原さんが、ええ感じに話してくれた。

「かみさんの上きげんと娘の健康が、一番大事。すべてやねん」。
作品には、その時の自分が正直に表れる。
そのために、まずは自分が安らかに、健全に生活できていることが大切だ。
そこには大切な奥さんと娘さんの存在があって、二人が、そして藤原さん自身がごきげんでいられることが、人が『なんかええ感じ』と手に取ってくれるものへと繋がる。

藤原さんはノミやカンナで木を刳り貫く「刳りもの」に、生漆を擦り重ねる「拭き漆」で食器やカトラリーを制作している。
「できることをできるようにやる。頑張って心が折れるより、どうしたら好きなことをやめずに続けられるかを考えてきた。やめないこと」。
木彫りも漆も好きだったが、はじめから仕事になったわけではない。
家具メーカーに就職し、結婚を機に奥さんの実家のイワナ養殖を手伝い、働き方、暮らし方が変わる中の“おもろいこと”に目を向け、「好きなことをやり続ける」ことで、現在の作品になっていった。
「道具がない、設備がないからできないことより、今目の前にあるものでできることをやって来ただけなんよね。身近にあって、狭いところで手っ取り早くできて相性が良かったのが器だった。」。
独立当初はちょっと奇抜な、デザイン性の高いものを作っていたそうだが、農作業や山仕事の暮らしで実用性のあるものを好む近所の方々との交流から、作品もだんだん暮らしに溶け込むような、思わず手に取ってみたくなるようなものを作りたいと思うようになっていった。
福島、南会津の山奥に住み始めて、作品がより暮らしに近づき、現実的になっていったと語る。
「すごすぎるものって、なんか怖いやん」。
畏れ多かったり、近寄りがたいものより、親しみが持てて、思わずなんだか触りたくなるもの。

「憧れなんてなかった」。
南会津の中でもひと際山も雪も深い地域に住む藤原さんは、憧れや理想を求めてこの地を目指したわけではなく、行きがかり上だとしか言いようがないと笑う。
それまで出会った人や土地、材料とのご縁が導いた、偶然、そして必然的な流れで今ここで活動をする。
「過ごしやすいだけじゃないところが、おもろい。(大雪と寒さで)油断してたら死んでまうかもしれん環境やし、天気には勝てんから。どうにも敵わんことがある程度身近にある方が、謙虚でいられるからいいねん。これ以上大変なんはいややけどな」。
藤原さんがものづくりをする上で大切にしているのは、①現状を認める。②流れに任せる。③今自分がやっていることを面白がる。
カラマツ林の中に佇む藤原さんの工房は、無理しない、いつも自然体の藤原さんと、ええ感じの作品にぴったりだ。

「これ以上彫ったらあかん“極”がある。いききらないと鈍くさくなるし、ギリギリのところを目指すねん」。
ここでやめるか、あと少し彫るか、なんて勇気のいる、究極の決断だ。
「ちーさいとこに、神様が宿ってると思うん。それが、手に取ってくれる人に伝わって、なんかええ感じに笑いが生まれたり、場が和んだりしたら嬉しいやん」。
目の前のものにただただ向き合い、藤原さんだからこそのユーモアと遊び心でひとつひとつ丁寧に彫り進める。

「自分が好きなことで人が喜んでくれたり、人を楽しませることが好きやねん」。
きっと、伝わる。
藤原さんの作品を、『なんかええ感じ』と手に取った人に、健やかでごきげんな日常が訪れますように。