【オオマタ暮らしのたより】 深まってゆく秋 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【オオマタ暮らしのたより】 深まってゆく秋 

2023.10.15

菅家 洋子(かんけようこ)

 10月、あんなに暑かった夏がうそのように、涼しくなった。最近は雨や曇りの日が続いていて、朝晩だけでなく昼間も「寒い」と感じる。もうストーブも必要だ。気温の低下に伴って、栽培している花の開花もずいぶんゆっくりになった。毎日採っても間に合わないほどの勢いで咲いていたかすみ草も、数日に一度の採花で充分になった。こうなってくると、なかなか咲かないとじりじりしたりして、本当に勝手なものだなぁと思う。

久しぶりの秋晴れ

 かすみ草への手が空いたぶん、秋の草花をいろいろ出荷している。特にワレモコウは土地によく合って、3年前に休耕田に植えた根がうまく育った。「ナチュラルセレクション」として春からセット販売してきた様々な草花も終盤を迎えている。色づき、枯れに近いものも、出荷先の東京では求められる。そこでは一見鑑賞価値がなくなったような姿に、季節を、美を見出す感性がある。

ワレモコウ畑

 最近は人と会えば「雪はいつごろになるか」という話題になる。一気に寒くなったので「早いんでねえか」という声が多く、私もそんなふうに思う。会津駒ケ岳、尾瀬の燧ケ岳は10月6日に初冠雪。どちらも例年よりも早い。燧ケ岳の初雪は、昨年が10月24日、一昨年は10月18日とある。これを見ると、やはり里(集落)への降雪も早くなるかもしれないと感じる。何もなければ楽しみに待っていられるけれど、雪が降る前にやらなくてはいけないことはたくさんある。出荷できる花はきれいに取り切ってしまいたいし、畑の片付け、パイプハウスの解体、家の冬囲いに、タイヤの交換、考えると焦ってくる。雪には、のんびり来てほしい。
 秋にはイベントも色々とある。10月1日には、夫の博昭さんが「暮らす地域の調べ方、まとめ方」を開催。午前中、私も一緒に大岐、小野川集落を歩いた。この企画は、昨年に引き続き2回目になる。一人一冊、小さなスケッチブックが配られ、山の稜線、見えるものを書いてみる。できるかどうか、不安そうにする人が多い。難しいように思うけれど、これは上手に描くことが目的ではなく、「観察する」ための行為。描こうとすると、より集中して、細かく対象を眺めることになる。観察し、気づくためのスケッチなのだという。そこは、山の木を伐ってお椀をつくる「木地師(きじし)」の集落があった場所。じっくりと山、土地全体を眺めていると、当時暮らしてきた人の目線や体感に、少しだけ重なっていけるような気がした。
 小野川集落の内と外を隔てる境界には、石碑が並んでいる。そのなかのひとつに、「大乗妙典経」と彫られたものがある。この下には、「一字一石経」といって、写経として文字を書いた小石が埋められているのだという。1795年(寛政七年)、当時オノガワ集落にいた医師が先頭に立ち、集落のみんなでひとつずつ石をおさめた。天明の飢饉で亡くなった人を弔うために建てたともいわれる。これまであまり気に留めずにいた石碑だったけど、この下にそういうものが埋まっているのだと思うと、感じ方がまったく変わってくる。一人一人が、弔いの気持ち、そして穏やかに暮らしていけることを願って、文字を刻んだのだろう。その時を生きた人の、その時のこころが、今もこの場所を守っている。

大乗妙典経の石碑

 さて、大岐集落の初雪はいつになるだろう。ちなみに昨年は例年よりずいぶん遅い12月2日だった。私が村で暮らすようになってから、10月中にまとまった量の雪が降ったこともある。迷うところだけれど、11月10日あたりと予想してみたい。正解をおたのしみに。