【奥会津に暮らす】 冬の手仕事 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【奥会津に暮らす】 冬の手仕事

2023.08.01

渡部 和(わたなべかず)

 夫の実家は美坂高原の麓にあり、標高の高い集落だ。山が深いので日照時間が短く、雪が続けば色のない低い空に押しつぶされそうな圧迫感を覚える。私は凍った雪道の運転が怖くて、冬は自力では山を下りられない。
 けれどもこの長い冬があるからこそ、奥会津の手仕事が続けられてきたのだと思う。雪に降りこめられるとあきらめもつき、今冬は何を作ろうかと楽しみになる。からむし織や裂き織と、その時々で心のおもむくままに手仕事をしてきたが、ここ数年続けているのは古布のはぎれをつなぐことだ。
 義母の手縫いの野良着は、使い込まれくたくたに柔らかくなっている。夫の実家に住み始めたころ、捨てられようとしているたくさんの古着を貰い受け、しばらく裂き織を楽しんだ。義母の老いが進み、そばにいるようになってからは、居間のこたつが私の仕事場になった。
 ちくちくと手縫いではぎれをつないでいくと、目の前に藍や辛子色や臙脂色がにぎやかに現れ、冬のさびしさをひととき忘れる。明るい色は、若かった義母が野良着の袖口の裏に、ひっそりあしらった布。しかもそれは集落総出で野良仕事に出る際、つまりよそゆきのときしか着ないものだった。そんな物語を聞きながら手を動かしていると、長い冬もやがて終る。
 暮らしている土地のもので作る、ということは、奥会津に来てから大事にしてきたことだ。ここにあるものに触れていると、心がすとんと落ち着く。義母が縫い、身に着けてきたものが私の手元にきて、また暮らしを彩るものになってくれるのも、ご縁だったのだと思う。
 春に開かれる町の生活工芸品展は、今は編み組が中心だが、かつては様々な手仕事が出展された。ひと冬かけて手縫いされたこたつ掛けは、今年はどんなものが見られるだろうと毎年楽しみだった。藁や草で編んだ座布団のように大きな「鍋敷き」をたくさん見ると、ああ、〇〇ばあはこの冬も元気に越えたな、と安堵したものだ。規格に収まらない、人の手の温度が伝わるものづくりが三島町の本来の「てわっさ」だろうと、このごろの変化をさびしく思う。