【わっさな暮らし】 縄を登る、その先に | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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【わっさな暮らし】 縄を登る、その先に 

2023.07.15

井口 恵(いぐちめぐみ)

五十嵐賢太さん(平成7年生 柳津町)

 「今年結婚が決まったんです。幸せな家庭を築けますように、今年は彼女のために登りたいです」。
 少し照れくさそうに、強い覚悟と責任感に満たされた姿が印象的だった。

 1月7日柳津町 福満虚空蔵菩薩圓蔵寺にて行われる七日堂裸詣り。
 20時半、一番鐘を合図に圓蔵寺の石段を駆け上がり、裸に下帯を締めた男衆が寺の中に走り込んでくる。
 闘志に燃えた人、強張った人、笑顔の人、寒さで震える人、叫び続ける人、すでに疲れ果てた人…
 わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!
 ものすごい熱気で威勢良く競り合うように、大鰐口を目指して麻縄を登る。
 1年で一番静かな晩に、かつて疫病や不作を治めるため借り受けた如意宝珠を取り返しに来る龍神を追い払うため、騒ぎ立てて龍神を追い返したところから由来する古くからの行事だ。

 20歳の頃、今までお世話になっていた先達に引き上げ役を任された。
 「あんなに大事な、目立つところ、俺がやっていいのかな」。
大役に身が引き締まる思いと、正直不安もあったようだ。
 登りたくても登れない人もいる、何度も挑戦しても上がってこれない人もいる。
 「少しでも手をいっぱいいっぱい伸ばして、ひとりでもたくさんの人に登ってもらいたい」。
 引き上げ役は、大鰐口左右に座り、登って来る人の手や下帯を掴んで最後を助ける役割だ。
 縄は上に向かって太くなるため、登る人は最後の最後に限界になっているからだ。
 1時間以上、落ちないよう左手で自分の身体を支え、右手で登って来る人を引き上げる。
 見ていてもハラハラする、大変な場所にいた。
 かつて、力尽きて転落してしまった人もいたそうだ。
 みんなが安全に、事故がなく登れるよう、賢太さん自身も限界まで補助にあたる。
 「中学1年生から登り始めた自分がそうだったように、みんなで乗り越える体験をして欲しいんです。特に子供は、何としても登らせてあげたい。勢いと熱気が最高に好きで、この達成感をみんなで共有したいんです」。 

 鰐口を任せてくれた人がいる。自分を応援してくれている人がいる。
 「やめるわけにはいかない。できる限りはやっていきたいです」。
 麻縄の下で足場になる人もいる、落ちないように見守る人もいる、登らずとも下から盛り上げる人もいる、歓声と拍手で応援する人がいる。
 わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!
 わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!
 みんなで声を出し合って、助け合って、心と力を合わせて協力すれば、登れる人がいる。

 「まだ友達だったときは、大変だな、頑張れって思っていたけど、今は違う。ただただ怖かった。どうか落ちないで。早く終わって、って」。(彼女)
 隣で心配そうに見守り続ける彼女の想いは、強烈に私にも流れ込んできた。

 無病息災、祈願成就、今年始まるひとつの家族に、きっと必ず、幸福が訪れる。