菅家 洋子(かんけようこ)
普段は花農家として働いている私。3年前からある活動をはじめた。それは「燈日草(トモシビソウ)」という名の出店本屋を、月に数回開くこと。福島県立博物館での講演のなかで「地域にいくつもの公共の場をつくる」という言葉を聞いたことがきっかけになった。公民館や美術館、公園などどいった一般的な公共施設以外にも、そこに暮らしている人たちの自由な発想で手作りされた空間が、あちらこちらにあったなら。人も地域も、もっと生き生きと輝いてくるようなイメージが湧いた。野菜や花のちいさな直売所、景色のよい場所に椅子をひとつ置いてみる。大きなお金や時間をかけなくても一人一人ができる形。それは意思表示であり表現で、様々な形がそうやって表れてくることを、私はとても豊かなことだと感じた。
私もなにか場所をつくってみたいなと思った。考えて思い浮かんだのは、誰でも自由に立ち寄って本を読める、図書室をつくること。子どものころから家にはたくさんの本があって、身近なものだった。今も本は大切な存在で、本屋さんも好きだし、蔵書も生かせる。少しづつ形にしていこうと動き出した。
そのころ昭和村では、木造校舎をリノベーションした交流観光施設「喰丸小」で、昭和村民が自由にお店を開くチャレンジショップ「よいやれ屋」という企画が始まろうとしていた。私の「図書室計画」を知っていた村役場に勤める知人が、そこで本屋として出店しないかと勧めてくれた。とてもありがたい提案だった。当初は自宅の敷地内にある小屋を利用しようと考えていたけれど、新型感染症の状況も厳しくなってきた時期で、高齢者の多いオオマタ集落に積極的に人を呼ぶような取り組みには不安もあった。「喰丸小」ではしっかりとした感染症対策がされていて、「よいやれ屋」出店者に対する役場のフォローも手厚かった。これなら安心して取り組みができると感じ、形態を「本の販売」に変更して、参加させてもらうことに決めた。
出店本屋「燈日草(トモシビソウ)」をスタートさせて3年目。今年も月数回の出店を、12月の初旬まで続ける予定にしている。これまで、本を販売する以外に、展示会や映画会などを企画してきた。なかでも一年目から継続して開催しているのが、「ヒロシマ展」。広島県出身の人間として、原爆が投下された8月6日、犠牲になった命、平和のためにできることを、みんなで想い、考える機会にしたいと企画をした。今年も8月19日から27日まで、喰丸小で開催する予定にしている。展示資料は、広島平和記念資料館が無料(送料のみ負担)で貸し出して下さるものを利用している。今回は、被爆者の記憶に残る光景を、広島市立基町高等学校生徒と証言者等が、やりとりを繰り返しながら共同で制作した「原爆の絵」を展示する。若い高校生が被爆者に添い、想像を絶する記憶に正面から対峙し、葛藤や迷いのなか時間をかけて一枚の絵を描く。その過程を思うだけで、胸にせまるものがある。ぜひ、多くの人に足を運んでいただきたい。
「燈日草」には、「日々を燈す」の意味がある。今を生きる人たちの日々を、そしてこの先の未来の日々を、やわらかく燈すことのできる場を、開いていきたいと思っている。