奥会津を伝える2 ~新潟大学での試み | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津を学ぶ

奥会津を伝える2 ~新潟大学での試み

2024.12.15

柳津町文化材専門アドバイザー(やないづ縄文館)長島雄一

                     
 この「奥会津を学ぶ」の欄で筆者が最初に紹介した小滝清次郎氏の民俗写真(2023年2月28日掲載「小滝清次郎民俗写真展」)に関する新たな動きを紹介する。
 今年11月、3回にわたって新潟大学で行われた「メディア論実習C」の授業(榎本千賀子助教担当)において、福島県立博物館に寄贈された小滝氏の10000点以上の写真の一部をデジタル化する作業が行われた。小滝氏の紙焼き写真やネガを学生諸君が実際にスキャンしデジタル画像やデータ等を作成。その後、こうしたデジタル資料はどのような分野で、誰が、どのように活用可能なのか、またそうした利活用に関して、どのような課題があるかを考える授業であった。今まで小滝氏の資料整理に関わってきた福島県立博物館の学芸員(民俗分野)と筆者も講師として招かれた。
 まず授業の狙いについて榎本助教から話があり、私から小滝氏の簡単な紹介、そして県立博物館の学芸員から資料とその整理の現状などについて説明を行った後、班ごとの作業に入った。作業ではネガ等に付着しているホコリの除去や傷をつけないように細心の注意を払いながら、写真やネガをスキャナーで高精細でスキャンしてパソコンに取り込み、関連データと説明用のメタデータを付けて一覧表化していった。

 3回の授業の後、班ごとに振り返りとまとめが行われた。活用に関するものとしては、
① 教育現場で
・昔の暮らしを調べる(調べ活動)・・民具の使用法、地域の信仰・文化財・歴史など。 
・普及が進んでいるタブレットでの学習(デジタル資料の検索など)。
② 現代に生かす
・自然・環境保護の視点:現在と過去との違いを比較することで失われた自然の実態を知る。
 ・地域の資料集として活用する。
 ・昔の服装への理解と共に、現代のデザインなどに応用できる可能性を探る。
 ・地域や歴史をテーマとして扱った際のエンターテイメントの材料・資料として使える。 
 ・受け継がれてきた年中行事や民俗芸能を思い出すきっかけになる(学芸員からは高齢者の「回想法」にも役立つのではないかとの助言があった)。
 より分かりやすい活用の工夫としては、
① 道具(民具)を実際にどのように使っているか、使用場面の写真を併用する。
② 直接的な「画像検索」を可能にし、類似した写真を見つけられるシステムを構築する。
博物館サイトなど、より多くの画像がアーカイブされているものへのアクセスは必須。
③ 「#」を複数利用した写真の公開により、1枚の写真から複数の写真へのアクセスを促進する。
④ 時代ごと、ジャンルごとの区分などにより、閲覧者の興味を深める。
⑤ 写真に対するコメント欄を設けることにより、対象写真に対する新たな知見を外部から得る。
⑥ 位置情報の共有などにより、アクセスをより容易にし、例えば文化財を巡る事業などにも応用する。
⑦ AIによるディープラーニングの技術で、写真を動かしたり、白黒の写真をカラー化することで、より多くの人々の興味関心を引き出すことが可能になるのではないか。
⑧ 展示ポスターなどにQRコードを掲載し、それを読み込むことで簡単に小滝氏の民俗写真へとアクセスできるようにする。
⑨ 説明用のメタデータの文章が長すぎると見づらく、興味を持ちにくくもなるので、文章を簡潔にしたり、項目別に分けたスライド形式での掲載、項目ごとにタブを作成して見やすくする工夫が必要ではないか。
などの意見が寄せられた。
 大学生という若い世代、また日頃メディアに関する調査・研究を行っている学生ならではの視点や工夫が多く見られ、筆者が知らない技術も知ることになってまさに「目からウロコ」・・・大変参考になった。今後に活かしていきたい。
 2017年12月の 「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について」(第一次答申)を受けて文化財保護法の改正が行われ、2019年4月1日 に施行された。それによれば、これまで価値付けが明確でなかった未指定を含めた文化財をまちづくりに活かしつつ、地域社会総がかりで、その継承に取り組んでいくことが重要とされ、改めて活用重視の方向性が示された。写真資料もまたそうした活用対象になりうるものである。

 この大きな流れの中で注意しなければならないのは、文化財の価値を壊すことなく活用するという点である。活用に走るあまり文化財そのものに危険が及ぶ、あるいは価値が損なわれるようなことになってはならない。対象となる文化財の価値を学習し理解した上で利活用するという基本姿勢を保持したい。授業ではそうした実例を挙げて注意を喚起した。難しい問題ではあるが、熟慮しつつ前に進んでいくべき課題である。