山の神さまの雪おろし | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

山の神さまの雪おろし NEW

2026.02.01

菅家 洋子(かんけようこ)

 この冬はじめての山の神さまの雪おろしは、1月27日。夫ヒロアキさんとふたり、カンジキを履き、アルミスコップ2本、プラスチック雪はね1本、コウシキベラ1本を手分けして持って、家の裏にある山の神さまのお宮へ向かう。なんと93歳の義父セイイチさんが、事前に階段部分の斜面を登って道をつけてくれていた。気力と体力がすごい。

 お宮の屋根に積もった雪は、結構な量になっていた。それでも、去年の今ごろ3回目の雪おろしをしていたことを思えば、この冬の雪はおだやかだ。ヒロアキさんが、お宮裏の杉の枝に掛けてあるステンレス製のハシゴを取りに行く間、私は周辺をカンジキで踏み固めて足場を作る。ハシゴは、10年ほど前に亡くなったヒサオさんが寄付したもの。いなくなっても、その人の存在を感じるものが残り続けている。こういう例はいくつもある。

 コウシキベラを使ってある程度の雪を落としてから、ヒロアキさんがまず屋根に上がり、次に私。ハシゴはつるつる滑るので、一段一段確かめながら上がる。ちらりと下を見て、思い出す。「一番最初が、一番おっかない」というセイイチさんの言葉。一番最初の雪おろしは、周囲に積もった雪がまだ浅く、屋根と地面との高低差が大きい。高さに対するおっかなさに加え、作業に慣れていない段階での怪我や落下の危険性が高くなるおっかなさもある。改めて気を引き締める。そして、ふたりで屋根に上がるようになった今、もしもヒロアキさんが落ちてしまった時には、この私が何とかしなければならない。慌てないで屋根から降りて、カンジキをはいて、スコップで掘る。埋まってしまって17分以内なら命が助かるといわれているから、落ち着いて行動すれば大丈夫。ここまでイメージしておく。

 ふたりで黙々と雪をおろす。「あんまり端さ行くな」と何度もセイイチさんに言われたことを、ヒロアキさんに向かって言う。こういう声掛けが、合間合間に必要だと思う。途中、落ちる雪にスコップを持って行かれたヒロアキさん。一度降りて、ぐるりと回って拾いに行かなくてはならない。ガッカリ具合が伝わってくる。もしやカンジキを履かずに行こうとするのではあるまいな…と思い、「ちゃんとカンジキ履いて、気を付けて行ってよ。ヒロアキさんの危険は、私の危険だよ」と釘を刺した。
 せっせせっせと雪をすくっては投げ、体がどんどんあったかくなってくると、自分がふつふつと燃える薪になったよう。気持ちよく命が燃えている。けれど1時間もすると、だんだん疲れて、腰も痛くなってきて、そろそろ終わりにしたくなってくる。それでもやっぱり、やるしかない。雪が、心とからだを強くしてくれるんだなと思った。

 2時間ほどかけて、雪おろしは無事に終了。ヘトヘトになった。セイイチさん、遅いなと思っているだろうとお宮を下りると、やっぱり外まで出てきて待っていた。「ひどかったべ」と言われる。家に入ると、「移動販売のかつ丼買っといたぞ」と義母ミヨコさん。セイイチさんはストーブに薪を足してごんごん燃やし、部屋をあたためてくれる。お年寄りチームからの労いが、終えた仕事の充実感をさらにやさしく包んでくれる。
 かつ丼を食べたあと、温泉に行ってゆっくりとお湯に浸かった。
 何のてらいもなく、いい日だったと思えるこんな1日は、ありそうでない。