ぶないろくらぶ | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

ぶないろくらぶ NEW

2025.08.15

鈴木 サナエ(すずきさなえ)

 7月25日、同じ郡内の老人クラブの方々が、只見町内のミュージアムを巡り、私が営む農家レストラン「山響の家」で昼食をとり、そして私が所属している「ぶないろくらぶ」でブナの草木染を体験するというイベントを企画してくださった。コロナ禍以前に同じコースを体験して、とてもよかったからと、メンバーを変えて、再度挑戦して下さったのだ。こんなことはめったにないから、とても嬉しかった。老人クラブと言うには、ちょっと若めのお姉さま方は、終始大声で話し、はじけるように笑っている。我が家での食事は座卓で、最近では椅子を使う人も多いのだが、このグループは誰も椅子を使おうとしない。いくつになっても、ちょっとお洒落をして、自然体で、みんなで一緒に食事をし、新しいことにチャレンジするのは若さの秘訣なのだろう。与えられた立場を、思いっきり楽しむ姿勢が、しみじみとさわやかに映った。

 今年、2025年は草木染のグループ「ぶないろくらぶ」を三人で立ち上げて10年になる。元々、自然素材の草木染には興味があり、草木染の染織家で人間国宝の志村ふくみさんのエッセイが大好きだった。そんなわけで、只見がユネスコエコパークに登録され、その目的である「人と自然の共生」を実現するために掲げた「自然首都・只見 伝承産品ブランド化事業」でブナを使った草木染の話があった時は、真っ先に飛びついた。町からの補助金で器具をとり揃えることから始まり、都市から、会津から、3人の講師の先生をお招きし、それぞれに学んだ。先生方からは、作品を見せて頂いたり、遊び心でろうけつ染めや柿渋染を学んだり、問屋さんを紹介して頂いたり、技術だけでなく、いろんなことで、今も、とても役立っている。
 只見町のシンボルツリーのブナは、かつて、「橅」の名前が示す通り、役にたたない樹として、建材などには利用されず、列車の枕木などに利用され、ドンドン伐採されていったという。それが只見に残っているのは、やはり山奥ということと、豪雪のハンディがあったからなのだろう。それでも、皆伐寸前にあったブナを守ったのは、大災害を目の当たりにて、ブナの持つ保水力に改めて気付いた只見の住民だった。今は、森林浴など、大人気のブナだが、私達は、その貴重なブナを使って草木染をさせて頂いている。

 ブナで染めることが第一の目標なので、会の名前を、分かり易く「ぶないろくらぶ」とした。ブナは、やはり他の地域では簡単に手にすることができないからなのだろうか、テキストにもあまり掲載されていない。同じブナを使って染めても、採取する場所によっても、年によっても色の出具合が違う。生きているブナの青葉を使って煮だして染めると、ツヤがあって素敵なのだが、当然、葉っぱを集めるのも容易ではない。そこで毎年、秋になると、落ち葉を拾い集めてストックしておき、体験教室などで一年中使うことができるのは本当に有難い。ブナは6~7年周期でたくさんの実をつける。ところがその年の落ち葉からは、同じ手順、同じ量で煮だしても色が出なくて、びっくりすると同時に、自然界の摂理に納得だった。

 ブナの他にも、タンポポ、キハダ、ヨモギ、アイ、サクラ、シソ、ワラビ、スギ、クサギ、ユビソヤナギ等々とその他にもいろいろなものに挑戦した。染色の世界では貴重とされるサクラやクサギも身近にあって嬉しい。中でもワラビは山菜王国の只見らしいし、先生からのアドバイスもあって、毎年、春になると染めている。ワラビは緑を出したいのだけれど、部位やそれぞれの工程の温度などで、黄色みが出てなかなか一定に染まらず、てこずることが多い。ところが今年は、メンバーの一人のひらめきで、スカーフやアームカバーが薄い綺麗なピンクに染まった。大量のワラビを手にすることができる只見ならではだね、と喜び合った。

 こんなことを通して、私達はどうしても「こんな色に染めたい」とか、「こんな色が売れるんだけど」とか、先走って考えてしまうけれど、それは私達のおごりではないかと、ふと、思ったりもする。

 昨年12月には「ぶないろくらぶ」がNHK番組「はまなかあいづ」の取材を受けて、その活動内容が放映された。私達はとてもプロとは言いがたい。でも、だからこそ多種多様な染料植物に囲まれた只見で、新しい発見にドキドキし、体験教室などを通して、みんなでその驚きや楽しさを共有したい。できることなら、草木染を通して只見の魅力を知って頂きたいと思っている。