菅家 洋子(かんけようこ)
まるで、真夏のような6月だった。本来なら、昭和村の梅雨どきというのは肌寒さが戻って、再度ストーブやこたつが必要になる季節。それが、居間では扇風機を回し、花の作業小屋ではクーラーまでつけた。今年だけであってほしい、と願うこと自体、現実を受け止めることができていない証拠だろうか。九州地方の花農家さんが、「夏に育てられる花がなくなりそう」と言っていたことを思い出す。高温、水不足、また局地的な豪雨での災害。日本全国の農家が、同じように、これからの農業に不安を感じながら、目の前の作物を一生懸命に育てているだろうことに思いを馳せる。
我が家の花栽培は、6月初旬から草花の出荷がスタートし、半ばからはクレマチスの出荷が始まった。2018年、お世話になっている種苗会社さんの案内で、長野県のある農家さんを訪ねた。クレマチスの先生、のようなその男性は、長い時間をかけて畑を案内し、お話を聞かせてくださった。そして帰り際、クレマチスの株を、分けてくださったのだった。その農家さんからいただいたひとつの品種のほか、3品種を導入し、現在4品種のクレマチスを育てている。試行錯誤の時を経て、ようやく形になってきた。クレマチスには、種苗会社さんと農家さん、ふたりの存在が重なっている。だから、大切に育てたいと思う。

そして7月、かすみ草の最盛期。そんななか、私と夫ヒロアキさんは、一泊で長野県へ出かけるという暴挙に出てしまった。7月初旬に、長野県に農場を持つ種苗メーカー各社が、リシアンサス(トルコキキョウ)をメインにした展示会を開いている。それに行ってみようというのだ。
我が家は数年前から、一重(豪勢な八重でなく、そよそよとした草花風)のトルコキキョウの栽培をはじめている。その参考にするために、またそうではなくても、花の展示会というものには、たくさんの面白さがつまっていて、「行ってみたいな」と思う場所だ。とはいっても、花が咲き続けている時期に家をあけるなんて簡単には考えられないこと。けれど、「今行かなくてはいけない場所、今やらなくてはいけないことがある」というとき、たとえ取り逃してしまう花が出たとしても、それを選んでしまうのが私たちだった。それでも、限度がある。ヒロアキさんは何があっても行く気だったけれど、私はどうしても花から手が離せないときは、留守番をするつもりだった。
出発予定前日から直前まで、とにかくノンストップで働いて、出来ることのほとんどを済ませた。なんといっても助かったのは、2棟のかすみ草が、出荷開始の段階には至らず待ってくれていたこと。これが始まっていたら行けなかった。なんとかふたりで出発することができた。

3社の農場をまわって見学、馴染みの社員さんたちとお話し、来年はこれを作ってみようという品種に出会い、友人のお蕎麦屋さんに立ち寄って、帰宅した。違う景色、空気を感じて、人と話して。いちばんは、元気が出た。そして、花づくりがまた楽しみになった。
帰宅して、さあもう花から手は離せない。といいつつ、合間には出店本屋「燈日草」を開き、そして「たいせつだ」と思うことがあるときには、また出かけてしまうだろう。花農家として、ちょっと恥ずかしいような気もしているけれど、そうやって雪が降るまでの花盛りの日々を乗り越えていくのが、私たちのやり方なのかもしれない。元気が出て、また花作りが楽しみになるのだから、花を育てる人であり続けるために、それはきっと必要なことなのだろう。