春木山 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

春木山 NEW

2025.04.15

菅家 洋子(かんけようこ)

 日に日に雪解けが進んでいる。4月も半ばに差し掛かろうとしている段階で、昭和村大岐にある我が家周辺の野山には、50センチ程度の積雪がある。お隣の姉さまとお茶をしながら、「4月中は、まだゆっくりできるな」と笑う。雪があるうちは、「できない」というか、「やらなくていい」というか。この時期の逸る気持ちを、残雪は「まぁ焦らずやっぺ」とおおらかになだめてくれる。ままならないのは春のスタートだけでなく、私たちは結局どの季節も自然の動きに沿っていくしかない。コントロールできないという前提に改めて立ち、いい意味で諦める。
 畑仕事には出られないけれど、この時期だからできる仕事もある。それが「春木山(はるきやま)」だ。春木山とは、春先の堅雪の上で行う樹木の伐採と運搬のこと。今年も92歳の義父セイイチさんが、弟さんと山で木を伐り、それをある程度の大きさまで割ったものを、私とヒロアキさんで運ぶ。伐採場所から、除雪された道脇に停めた軽トラックまでの運搬に使うのは、セイイチさん手作りのスキー板を利用したソリ。雪の上を滑らせるので、少ない労力で運ぶことができる。とはいっても、ずっしりとした生木を乗せたソリを引くのは、大変な重労働だ。たとえ荷を下ろした後であっても、雪に足を取られながらソリを引き歩くのは楽ではない。

          
 急な登り坂や長い距離を、はあはあと息を切らしながらソリを引く。足を止めてしまうと、歩き出すのにまたふんばりがいるので、がんばれがんばれと自分を励ましてみたり、無心になるために歩数をかぞえてみたり、ああもうキツイ、なんなんだこの仕事はと、半泣きでソリを引いたこともある。下り坂もただ楽なだけではない。重量があるほど勢いが増して、どんなに緩やかな坂であっても小走りにならざるを得ない。ソリの下るスピードに走る足が間に合わなかったり、足が雪に取られて転んだりすれば、荷に巻き込まれて骨折などの大きなけがになることもある。セイイチさんに心配されて、「ヨウコは空ソリだけ引け」と言われたりする。雪の固い早朝はソリが滑りすぎて危ないので、あまり早い時間に作業しないようにとも言われる。
 伐ったのは、樹齢60年近くのコナラ。ある程度細かくしても、ソリに乗せるのはひと苦労。縄文時代や薪を多用していた時代に伐っていたのは、樹齢20年くらいの木だという。伐採にも運搬にも利用にも、過度な労力のいらないちょうどいい大きさの木。継続した利用があって、その循環が守られていた。
 幸い今年は、比較的平坦な単距離という運搬ルートだったので助かった。春木山を済ませて、またひとつ、春が近づく。

        

 畑一枚ずつ雪解けが進んでくれれば、順番に仕事がはじめられるけれど、そういうわけにはいかない。雪が消えればいっぺんに作業がはじまり、忙しくなる。
 自然に雪がなくなるのを待つ以外に、我が家では「もみ殻くん炭」を畑に散布する。炭の黒色が太陽の光を集めて融雪を促し、そして雪解け後には土壌改良として作用する。

      
 もみ殻くん炭はすごいやつだなぁと、その存在には憧れのような気持ちをいだいている。このちいさなくん炭が、静かに力を発揮して、最後には土を豊かにしてくれる。ちいさな存在のはたらきに励まされながら、地道に、ということを、改めて心に据える。