里山の自然現象 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

里山の自然現象 NEW

2025.04.15

鈴木 サナエ(すずきさなえ)

 積雪3メートルを超えた只見の冬も、お彼岸も過ぎて、ようやく雪の心配もなくなった。雪消えの道路の脇には蕗の薹が芽を出し、庭の福寿草はいち早く黄金色の花を咲かせ、軒下の小さな庭の水仙やチューリップの芽はだいぶ背丈を伸ばしている。そしてまた、町の空き地のあちこちに山と積まれた雪をバックホウで崩して、ダンプカーで川へ運ぶ作業が、4月中頃になる今も続いている。急速にどんどん雪が無くなっていくのを見ながら、友達と
「何だか雪がもったいないな、もっと雪を楽しめば良かったな」
等と、未練がましく会話する。毎日毎日、あんなに大変な思いをさせられた雪なのに、これはもう雪国生まれの性としか言いようがない。子供のころから身にしみこんでいるに違いない、雪国の楽しさや美しい現象を紹介したい。

【堅雪渡り】

 雪国の醍醐味を味わうには、やはり第一に「堅雪渡り」ではないだろうか。
 3月ともなると、降り続いた雪もおさまり、日中の暖かな日差しによって、雪の表面が解けてくる。そして夜になると解けた水分が急激に冷え、朝方までにカチカチに凍って「堅雪」になる。早くからお日様が上がり、とても明るいけれども、空気は冷たくキーンと張りつめ、真っ白な雪の表面がキラキラと輝いている。足跡もつかない堅い雪の上を歩けば、田んぼでも野っぱらでも、どこまでも、どこまでも目の前に、物音ひとつしない、平な雪の世界が広がっている。踵を返して、山のふもとの杉林の中に入れば、秋とは違って、手を伸ばせば届きそうな位置に杉の葉っぱがあって、かすかに新鮮な杉の香りもして、杉の木とお話もできるようだ。冷たい空気に包まれて、なんだかとても嬉しくなる。
子供の頃のそんな光景が、今になると、童話の中の絵のように、悲しいまでに鮮やかに蘇ってくる。

【窓霜(まどしも)】
 とても冷え込んだ冬の朝、窓ガラスの表面の水蒸気が凍って、美しい模様ができる。
 尖っていたり、丸かったり、連続模様でも一つ一つが異なる白く透明な模様は、自然が描き出す最高傑作の芸術品だ。手を貼り付ければ、吸い付かれそうに冷たい。詳しいメカニズムもわからないのだけれども、あれをもう一度見てみたいと思いながら、ここ数年、過ごしていた。その「あれ」が「窓霜」という現象であることを、ごく最近になって知った。寒い北国ではありふれた現象らしい。以前は、我が家の窓の内に、ひと冬に何度も見ることができた、窓霜が、温暖化のせいか、ここ数年、見ることができなくなってしまった。あれほどに見とれた窓霜の画像を残しておかなかったことが悔やまれる。

【雪まくり】

 3月の初めだったろうか、国道を走行していると、山の斜面の下の方に今年も10数個の綺麗な「雪まくり」を見ることができた。木の枝などから落ちた小さな雪の塊が、風などの力を借りて、コロコロと新雪の上を転げ落ち、ロールケーキのように形作る。雪だるまを作る時、転がして、大きな丸い球を作っていく時と同じ原理なのだと思う。同じ方向を向いて、それぞれが違った位置に立ち止まっている「雪まくり」は、似たような大きさで、まるで子供たちが「だるまさんが転んだ」のゲームをしているようで、可愛らしかった。