菅家 洋子(かんけようこ)
2月2度目の寒波、気温はぐっと下がったものの、前回のような豪雪にはならずほっとした。
寒波の週のある日、昭和村大芦集落にある「ファーマーズカフェ大芦家」を訪れた。客足の鈍くなる季節、しかもこの天気、お客は私たちだけかもしれないなと思っていた。開けた扉の先、カウンターにはふたりの男性の姿があった。私とヒロアキさんはテーブル席に座った。しばらくすると、またひとりお客さま。おじいさんが、ゆっくりした足取りで入って来た。そして席について、こう言った。
「今日、デイサービス休みだぁ」

デイサービスが休みになったじいさまが来る喫茶店・大芦家。なんだか肩の力がどはっと抜けた。カウンターのおふたりも近所の方で、大芦集落の男性3人が、それぞれ来て居合わせたという形。すごくいい日に来たなと思った。大芦家さんのよさが、こんなによく分かる日。ちょっとうれしい日も、ちょっとかなしい日も、なんとなくの日も、気負わずに来ることができて、ゆっくり時間を過ごせる場所。私が開いている出店本屋も、こんなふうになれたらなぁと思う。
その出店本屋「燈日草」(ともしびそう)、寒波の週末は今年はじめての出店日だった。昭和村の雪まつりに合わせた出店、お祭りは中止になってしまったけど、変更せず開くことにした。

ストーブのまわりに椅子を置いてあたたまってもらうスペースをつくり、冬囲いされた窓、上板一枚分の隙間から、さらさらと降る雪や、ときおり差す光や、吹雪で真っ白にけぶる空を見ていた。ころころ変わる天気。そしてこんな雪のなかを、来てくれる人たちがいる。ほぼ全員が常連さんや友人たち。もう一度言うけれど、こんな雪のなかを、わざわざ来て本を選んでくれる人たちがいる。書きながら、こんなことってあるかなと思う。大芦家さんとセットで回ってくれる方も。交わす言葉が、いつもよりもっと、あたたかく感じた。まずはみなさん、大雪の話。

会津に暮らす人たちは、「2月は雪かたしして終わった感じ」と。雪はもういいけど、2月はあっという間すぎて、もう1回あってもいいねと話した。凄まじい交通渋滞になってしまった会津若松市では、歩いたほうが早いと、4,5キロくらいまでだとみなさん徒歩で通勤していたという。そう話すご本人もしばらく車を使わず、買い物にも行かなかったと。会津の保存食のありがたさが身に染みた、とおっしゃっていた。雪まつりでスノーモービルに乗るのを楽しみにしていたという関東からのお客さま。去年は雪不足で乗れず、今年は雪が降りすぎて乗れず、来年こそは…!と。
しかし残念ながら、笑顔で話せることばかりではない。農業施設の被害に遭った方も大勢いる。福島県全体で500棟以上の施設被害が確認されているという。融雪が進めば、更に増える。
雪はまだ、たくさんある。春の雪解けは、一週間くらい遅れるだろうか。今年92歳になる、義父セイイチさんが言った。
「雪の消えなかった年なんてねえから」
当たり前のことなのだけれど、はっとする。そしてこの雪は、めぐりめぐって、私たちの暮らしや農作業を支え潤す水となる。青々とした山と、日に輝く水の流れが、ざあっと目に浮かぶ。なつかしい未来。
雪は大変、だけど、雪は大切。寒波のあとは、あたたかな日が続く。少しずつ、春が近づいている。