渡部 和(わたなべかず)

居間の障子が明るみ、暖かな日差しが届く。やわらかな光とぬくもりがしみじみとありがたい。
2月に入ってまもなく襲った強く長い寒波は、豪雪地と呼ばれる奥会津にも例を見ない大雪をもたらした。除雪するそばから降り積もり、家の周りはみるみるうちに高い雪の壁に囲まれた。玄関前からカンジキで雪を踏んでつくる道は、次第に勾配がきつくなり階段を刻む。2メートル近くの高さから見るわが家は雪の底に沈んでいるようだ。
昨冬は珍しく雪が少なかったので、遠方の親戚も、寝たきりとなった義母にたびたび会いに来ることができた。今年、天が壊れたかのように降りしきる雪の中で、病む人や老いた人、その家族はどんなに心細かったことだろう。その人たちのもとへ通う在宅医療センターの方たちのご苦労も思いながら、初めて夫と二人だけの冬を過ごした。
2月は、特別な記憶を連れてくる。結婚が決まり、初めて夫の家を訪ねたのは2月の雪の夜だった。車のライトに照らされ、雪の中をなにかが跳ねて消えた。
「ウサギだ」と夫が教えてくれた。
その晩、こたつの上に夫の母の心尽くしの手料理が並んでいたこと、中でも銀鱈の煮つけの優しい味わいにほっとしたこと、その銀鱈は高価なもので特別な時しか食べないと後に知ったことなど、何度かどこかに書いたので、またその話、と思われるかもしれない。何度でも思い出し、そのたびに懐かしさと、泣きたくなるような気持ちがこみあげる。
「真っ暗な雪の中をどこまでも連れて行かれるようで怖かった」と、結婚後しばらくして近所の女性たちにこの日の話をすると、「大石田さ初めて来るときは、みんな夜に連れて来られんだよ」
<ヨメ>の先輩たちは笑いながらいろいろ教えてくれる。
「はじめが肝心だぞ。最初っからなんでもやってはダメだ」
「あんたはいいヨメさんだからあぶねぇ」
「いや、オレだってはじめはいいヨメだったよ。途中でキツクなったんだ」
「キツクなんねぇとやってこらんにかったよな」
雪も吹き飛ばす勢いで笑いながら言いたいことを言う先輩たちに、呆気にとられるやら感心するやら。こんなふうにカラカラと笑い飛ばせるようになるまで、どれほどの修業が必要だろうと思った。
いつの冬だったか、義母が真面目な顔で言った。
「おめぇひとりになったら、好きなとこ行っていいよ。こんな雪ひでぇ山ん中、ひとりでは暮らせねぇんだ」
子どものいない私への、義母の思いやりだったのだと思う。義母がいなくなってみると、夫婦二人のこれからの人生をあらためて考える時間が生まれ、それは楽しみだけでなく、様々な心配や不安も連れてくるのだ。
今日のような雪晴れの日は、集落の中をゆっくり歩いてみる。雪の壁が高く連なり、向こう側はまだ見えない。カタユキになれば、きっと野ウサギやキツネの足跡に遇えるだろう。ようやく3月。青空を見上げ、深呼吸する。