菅家 洋子(かんけようこ)
集落にいるカラスたちに「おはよう」とあいさつをする。車で近寄っても反応の遅いヤマバトには、運転席からつい「おーい。おーい」と呼び掛けてしまう。カケスの羽がとてもきれいで、よく見てみたいなぁと思う。仲良くなって、ちょっと見せて…とできる仲になれたらいいのにと無理な想像をしたり。川の上を、カワガラスが「ビ、ビ」と鳴きながら飛ぶ。尾をぴょこぴょこ動かすセグロセキレイ、キセキレイの黄色は本当に明るくてすきだ。空を泳ぐように飛ぶトビ、サシバを見られたときは感動する。電柱や電線に止まっているノスリを見られた時も得をした気分になる。夜に響く、カネブチドリ(トラツグミ)、フクロウの声。スズメも、ツバメも、みんなかわいい。白鳥はもちろん、いちばんの憧れ。
集落が雪に囲まれる冬はエサもなくなるので、鳥たちは会津盆地あたりに移動したりするらしい。残っているカラスに、時々野菜くずを投げてやったりする。
家のうしろにある山の神さまのお宮のまわりには、ウサギの足あとがたくさんある。屋根の雪下ろしを終えてお宮をおりたとき、ちょうどクマタカが飛んできて家の近くの木に止まった。ウサギがいるから、クマタカも来る。クマタカをこの辺りで目にするのはこの冬2回目だった。一度目は隣集落「奈良布(ナラブ)」のお墓のそばに立っている木のてっぺんにとまっているのを見つけた。ぼさぼさ降る雪の中、クマタカのシルエットがきれいだった。


ヒロアキさんと一緒に、山へ猛禽類の調査に行くことがある。いくつかあるスポットに、定期的に足を運んでいる。双眼鏡で、山の端をたどっていく。自慢じゃないけど、素人の私も時々姿を捉えられることがある。「出た」と声にする。そこまではいい。どこに出たか、というのをヒロアキさんに伝えるのが、とても難しい。街中なら、あの建物の、看板の、と目印があるけれど、「あの、緑の深いところの、とがったところのちょっと下の…」と、全然うまく伝えられない。調査なので、私が「タカ科のすごい鳥だ~」と心を膨らませているだけでは意味がない。ヒロアキさんが種類を判別し、行動を観察できなければ意味がないので、見失わないように気を付けながら、必死に伝えようとする。

ヒロアキさんは私の真後ろに回ったりしてその姿を捉えようとする。再び山の向こうに消えてしまう前に「見えた」と言われた時、心底ほっとする。どうしてあんな小さな点に近い姿の鳥の判別をできるのか。あれを肉眼で見る人もいると聞き、信じられないような気持ちになる。
会津若松市で計画されている、風力発電建設計画予定地には、たくさんのクマタカがいる。現在建っている風車のある周辺を飛ぶクマタカを、同時に3羽見たこともある。感動的だった。
「風車に当たらんようにするんよ」
届かない声でつぶやく。クマタカは、山を抱くように飛ぶ。
この世界を、土地を、山を、川を、海を、人間はまるで自分たちだけのもののように壊したり、削ったり、建てたり、埋めたりしている。もし逆の立場だったら。わたしが、あなたが、鳥だったら。自由に、豊かに暮らしたい。望みはきっと、同じだと思う。じゃあ、あの鳥は私たちなんじゃないの。風力発電所は本当に必要なのか、誰のためのものなのか。
もう一度それを問う人が、ひとりでも増えてほしいと思う。