井口 恵(いぐちめぐみ)
小島義光さん(昭和24年生 柳津町)
ざる菊が咲き誇る秋の空に、透き通った心地よいオカリナが響いた。
優しく語りかけるようで、どこか懐かしい、澄んだ音色が心地よい。
「ここは周りを杉で囲まれているから、音が反響してすごくきれいに聴こえるんだよね」
義光さんが、オカリナを手にしたまま、嬉しそうに語りかける。
ざる菊を見に来ていたお客さんにも、自然と笑顔が生まれる。サプライズな演出だ。
「聴いてくれる人がいると、できるだけ間違えないように緊張して吹くから、上達するんだ」
鑑賞で訪れた三島町の名入ざる菊園でオカリナを吹くようになると、合わせて歌ってくれる人が現れたり、オカリナをきっかけに出逢いが生まれるようになった。
義光さんは、10年程前偶然聴きに行ったオカリナ会の演奏に心を奪われ、練習会に通うようになった。
それまでは楽器を手にすることはなかったし、音楽も好きではなかったという。
「人と合わせることは、どちらかというと苦手だったんだよね…」
掌にすっぽり収まる丸っこい陶器に穴が10個、13音が出るシンプルな楽器だ。
「吹くときにしか音が出ない。簡単なところが好き。どこでも持ち歩けるしね」
普段の練習は、所属協会(ライリッシュ・オカリナ連盟)提供の伴奏テープに合わせて一人で練習をする。
現在ではあまり使われなくなった旧道や、発電所、只見線の無人駅などがお気に入りの練習場所だ。
これまで100曲ほど挑戦している。
私にとってはあまり馴染みのない楽器で、小さくてシンプルな作りでありながら、奏でる音の深さと広さに興味を持った。
義光さんに会津のオカリナ演奏会にお誘いいただき、足を運んでみた。
そこでは、一人の演奏とはまた違う、重厚で伸びやかな、力強い演奏に感動した。
「ハモったときは何とも言えない満足感で、音と音がピタッと重なると最っ高に気持ちいい。一人でやってたんじゃ、とても味わえない」
確かに、それぞれの息遣いがお互いに語りかけるようなハーモニーを奏でている。
協会提供の伴奏に合わせるので、事前の合同練習がなくても合わせられるのが機能的だ。
「はじめましての人や、普段はあまり交流のない人とでも、その瞬間一体になれる機会は貴重。オカリナを通してこういう交流ができることは、すごくありがたい」
「オカリナを吹くようになって、勇気が生まれた。人前で披露することや、知らない人に話しかけることが、できるようになったんだよ」
現在、只見線全線開通に伴い、柳津駅での観光案内ボランティアにも力を入れている。
乗車人数の多い時間帯に合わせて、電車に手を振ったり、メッセージカードを掲げたり、町内の歴史や名所紹介、道案内などを行う。
「人前で一人でこんなことするなんて、考えられなかった。きっとオカリナをやってなかったら、できなかったよ。今はお客さんの笑顔を見るのが好き」
オカリナとの出逢いが義光さんに勇気を与え、その義光さんがまた、奥会津を訪れた人の笑顔を誘う。