読み聞かせ徒然 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

読み聞かせ徒然

2024.04.01

鈴木 サナエ(すずきさなえ) 

 3月7日、今年も、只見小学校の読み聞かせの最終の日を、無事に終えることができた。「只見なかよしボランテイア」と名付けた、この読み聞かせのグループができて、もう20年以上になり、いつも15人ぐらいのメンバーで活動している。と言っても、年に14~15回4班に分かれて、朝の約20分を小学校へ行って、読んで聞かせるだけなのだ。1・2年、3・4年、5・6年と、3組に分かれるから、1回に会員3人が担当して、せいぜいで1会員、年3回か4回の活動ということになる。

 グループ発足時には、PTAや婦人会、と言ったグループからメンバーを募ったから、ほとんどが女性だが、いつもひとりぐらいは男性がいてくれる。誘い合ってメンバーになってくれる男性はどういうわけか、他所から来た人ばかりだ。
 古本屋さんと喫茶店を兼ねたお店のオーナーのAさんはご自分でエッセイのようなものも書いておられたので、只見の自然を盛り込んだ物語も読んだと聞いた。古い本や、古いしゃれたインテリアに囲まれた喫茶店でも、読み聞かせをしてみたかった。また此処のかき氷は、当時、避難民だった我が家の孫のお気に入りだった。
 亡くなられた昭和漫画館のオーナーのTさんは、1・2年生を対象に、いつも自分の漫画館から持ち込んだ、豪華紙芝居を読み聞かせたと聞く。NHKの「ゲゲゲの女房」の撮影時には、ここの漫画が使われたし、膨大な漫画が、只見から文化を発信していた。いつももの静かで寡黙な方なのに、好きなことになると饒舌だったTさんの紙芝居を、私も聞いてみたかった。 
 Kさんは、串田孫一の「山のパンセ」が好きだと、小耳にはさんだので、早速、グループへお誘いしたら、すぐに入会してくださった。勿論、山も登られていたようなので、どんな山登りだったのだろうと、興味も湧く。しかし班が違うのでOさんが、どんな本を選んでいるのかわからないままなのは、とても残念だ。
 私の都合がつかない時、1回だけ、会員でもない夫の章一に、頼んだことがある。章一は迷うことなく、紙芝居の舞台を持って学校へ行き、自作の紙芝居を披露していた。只見の歴史や山にまつわる紙芝居を、子供たちは喜んでいた、と章一は言っていたが、果たして、本当だろうか。
 今、会長を務めてくれているSさんは熊本出身で、若いし、何でもこなし、何でも興味を示すマルチ型人間だ。子供たちはこういうタイプが好きだろうから、ありがたい存在である。

 発足から20年以上になるから、当初からのメンバーは少なくなってしまったが、最長老のRさんは、もう90歳を超えていると聞いて驚く。記憶力も抜群で、とても90歳には見えない。また、3~4年前、90歳近くまでひとり暮らしで、読み聞かせをとても楽しみにしていたKさんは、高齢のため子供たちの住む町へ引越していかれ、退会を余儀なくされた。ボランテイアは人のためにあらず、自分自身のため、というが、Kさんを見ていると、ほんとうにその通りだと思える。目も悪くなったから、との理由で、グループを離れていく人も多い中で、RさんもKさんも、好奇心旺盛で、何事にも積極的だから、研修などの参加率も高い。大げさなことでなくとも、こんな小さく、好きなことでも、生涯現役で居られたらいいなと思う。

 それにしても、20年もやっていても、いつもいつも何を読んだらいいのか、迷ってしまう。章一はよく、森鴎外の「高瀬舟」とか芥川龍之介、宮沢賢治がいい、と言っていたし、民話の会の人は只見の昔話を、と言ってくるし、知り合いの創作絵本も捨てがたい。笑いを誘うような、楽しい本を読みたいと思いつつ、そういう本を私は知らなくて、どうも、メッセージ性の高いものを選んでしまう傾向にある。でも、今年は割とバラエティーに富んだ読み聞かせができたかもしれない。
 まず、春に3・4年生の教室で「かたばみ」等の花の本を読んでみた。この本は植物にめっぽう詳しく、また、司書の資格を持つ方から借りた本だ。本の内容の他にも、日本の代表的な家紋になっている話などしたら、そのクラスには家紋がケンカタバミの子もいて盛り上がった。読み終わったら、子供たちも先生も、私が座っている席にきて、興味深そうにこの本を手にしていた。こんなことは初めてだったので、とても嬉しかった。

 その後は、5・6年生相手に「カナックリ太郎」「雪女」「石になった餓鬼牛」等の只見の民話を読んだが、子供たちは誰一人、ツララを只見の方言で「カナックリ」ということを知らない様子だった。餓鬼牛の大岩は、今でも、只見地区のはずれにある。以前は標識なども整備されていたが、今はなくなってしまっている。それでも、半数の子供たちは知っていたので、安心した。
 お正月近くなっては、会員2人で、3・4年生を相手に、久しぶりに「只見自慢カルタ」で遊んでみた。このカルタは、私達が別なグループで作ったもので、只見の歴史や自然、あるいは日々の営みをテーマに、絵や文字も自分たちで書いて完成させた。正に、只見自慢のカルタで、商品化もされているのだが、あまり普及していない。それでも、カルタをとる子供たちの目はランランと輝いていたから、別のクラスでまたやってみたい。

 そしてこの3月、5・6年生だから、6年生にとっては最後の読み聞かせとなる。卒業、おめでとうの気持ちを込めて、何を読んだらいいか迷い、珍しく公民館の図書室にも足を運んだ。そして結局、選んだのは、私が若い頃に読んで、心に残っている「リトル・トリー」だ。これは、アメリカ先住民であるリトル・トリーが、子供の頃関わった祖父母や自然から学んだ世界観や、理解することの大切さを問う、深い思い出の話だ。只見の子供たちがやがて、故郷を巣立って行っても、自分の中で何が大事かを忘れないでほしいという、私の願いも込められている。いつの日か、そんな場面に出会うことだろうと思っている。

 さて、書いている内に 「そうだ、今年は <ふくしま本の森>へ行こう」 と、思いついた。本の森は絵本も増えたと聞いているし、何冊借りてもよく、長く返さなくても、催促もされないと聞いた。ずぼらな私にピッタリの本屋さんなのが、有難い。