【わっさな暮らし】人と獣の関係 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】人と獣の関係

2024.02.15

井口 恵(いぐちめぐみ)

二瓶正雄さん(昭和22年生 三島町)

私が奥会津に来た2017年から、近年にかけて目に入る風景に大きく変わったところがある。
田畑を囲う電気柵だ。
かつて会津にはいなかった猪と鹿が増え、田畑への獣害が深刻になっている。
なぎ倒された稲穂、掘り返された畑、バキバキに折られた果樹…
手をかけて育てた作物が収穫を目前に荒らされる状況は、見ていてシンドイ。
獣が人家のすぐ近くまで訪れ、被害に遭う人も出てきている。
「昔は嶺の内側まで炭焼きしててな。雑木の中に炭窯が点々とあって、常に炭焼いてる匂いが漂ってたんだ」
かつては、民家と山の間には、人の手が入る里山があり、人と獣の境界線になっていた。
しかし、段々と人が山の管理に入らなくなり、山の中の環境が変わっていった。
荒れる山に住処を失った獣は、人里に下りてくるようになった。

堅雪になる頃、ここ数年猟友会を中心に有害駆除の巻き狩りを行っている。
山の尾根に一定間隔で撃ち手が控え、山の下から複数人の勢子が声を出して獲物を取り囲みながら追っていく猟だ。
猪も鹿もいなかった奥会津では、かつて巻き狩りの対象はウサギだった。
雪深い奥会津では冬期間の貴重なたんぱく源確保でもあり、集落が一体となる冬の楽しみでもあった。
少し前には100人程いた三島町猟友会も、今では15人前後、平均年齢70歳だ。

巻き狩りに同行しながら、鳥獣保護員、有害駆除員をしている鉄砲撃ち2年目の新人、二瓶正雄さんに話を聞いた。
正雄さんは50年間乳牛の飼育に携わり、多い時で30頭近い牛の世話をしていた。
今まで家畜を“育てる”立場にいた正雄さんは、引退を機に鉄砲撃ちを始めた。
「獣による被害は年々増えるけど、その対応をする人が集落内にもいない。まずは罠(免許)取ったけど、止め刺し(刃物でとどめを刺す行為)しなきゃなんないのがかわいそうで。それなら、苦しまないように一発で仕留める鉄砲の方がいいかなと始めた」

巻き狩り計画地図

 

「飼ってた牛1頭ごとに性格も体調も違う。よく人のこと見てんだな、信頼関係ができてくる。家族みたいなもんだから。牛が態度で示してんだけど、わかってあげられないこともあってなぁ。申し訳なかった。50年やってもベテランにはなれなかった」
搾乳期間をあけずに種付けするために、個体ごとの体調、周期、脂肪バランスなどを細かく把握し、その日の牛の状態に気を配りながら日々飼育に当たる。
正雄さんが語る牛との思い出には、家畜に留まらない愛情と、いのちへの敬意が表れる。

「牛飼って生かすことに必死になった。経済動物でも、死なれることは辛かった」
長いこと牛を育て、今、命をいただく猟について、どう思うのか。
「よく言われんの。でも、殺したくてやってるわけでない。今の暮らし方を守るために、結果的に殺すことになってる。だからいたずらに命を奪うんでなく、無駄なく処理してあげるんだ」

電気柵をいくら張っても、小規模の巻き狩りや罠でかかる獣を駆除しても、状況は大きくは変わらない。
人によって、獣は山での静かな暮らしを追われた。
獣によって、今、当たり前だった豊かな暮らしが脅かされる。
私たちは、これからの人と獣の心地よい関係に、何ができるのだろうか。