【わっさな暮らし】段取り一番 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】段取り一番

2024.02.01

井口 恵(いぐちめぐみ)

久保田孝雄さん(昭和23年生 三島町)

12月下旬~4月の中旬にかけて、家も畑も田んぼも山も、深い雪にすっぽり覆われる。
今も昔も、そんな奥会津での冬の暮らしに欠かせないもののひとつが、“かんじき”だ。
深く積もった雪の上を歩くときに、足が雪の中に埋もれぬよう、雪への接着面を大きくして足が沈まないようにするための道具だ。
「これがないと生活できない。長靴よりも大事だわい」
確かに、どの家の玄関先にもかんじきがかかっている。それも何足分も。
時代の移り変わりで使われなくなる民具が増える中、家の周りの雪かたしをする時、雪山を歩く時、現在でも変わらずに使われている。
「山歩きにはかんじきが一番でないかと思う。最近売ってるのは湿り雪を歩くと緩んでくる。ゲンベイ(藁で作った靴)にかんじき履いて、濡れたのを囲炉裏の上の火棚に上げて乾かしてな。3つくらい用意して毎日順番に履いて使ってたのよ」

作れる人が減る中、孝雄さんは今でも機会があればかんじきを作っている。
「親父が作ってんの見て、わがで何回もやって直してるうちにできるようになったんだ」
4~5年物の身の入った根曲がり竹を採ってきて、じっくり熱を加えながら丸く枠型を作る。
「今はちょっとずつ火に当てて曲げるけど、炭焼きやってた頃は、焼き終わった炭を出して窯を冷ますとき、残ってる灰の中に入れんだ。全体に均一に熱が入るから、無理なく曲げられた。その年必要な分だけ、炭焼きのついでにやってたぞ」
形作った枠型に、ナイロンロープで長靴との接続紐を結んでいく。
「昔は足を乗せるとこのロープにはやまぶどうの皮、結ぶ紐は稲藁とモワダ(シナノキの樹皮)を混ぜて綯った縄を使ってた。丈夫であることが何より大事」

孝雄さんが住んでいる地域は、町内でも特に雪の深いところだ。
「毎日隣の集落まで、男も女も関係なく隣組で順番に雪踏みしてた。雪が多い時は一日に3回道踏み歩ったこともある。なるべくたくさん踏めるように、今よりも輪がでっけいやつでな」

春のお彼岸頃雪が落ち着いてくると、“春木山”が始まる。
冬場の貴重な資源となる薪切りだ。
「家の近くは畑や田んぼにしてたから、柴や木は近くにはない。遠くの山まで行かななんなかった。共有林を区画分けして、1年分を切って割って積んで乾かしとく。ブナ、ナラ、サクラが良く燃えた。3年置いたのが一番よく燃えて長持ちしたな」
堅く締まった雪の上を、ソリを利用して運んできたそうだ。

まだ雪が降る中、次の冬に向けた作業をする。
雪に悩まされ、翻弄されながらも、雪を利用して雪と共に生きてきた。
「常に先のこと考えて、できることを準備しなきゃなんねぇの。急に必要になっても材料がないことには作れない。採ってもすぐ使えるわけでもないからな。前々から準備しとくの」
山菜もきのこも、野菜も、長い冬を乗り越えるための貴重な食糧として保存する。
暮らしに必要になる道具は、雪のない時期に材料を収穫して備える。

「厳しい冬を乗り切るためには、段取りが一番大事だ」
奥会津の先人達が重ねてきた暮らしは、常に来年、再来年、そして未来を見ていた。