井口 恵(いぐちめぐみ)
馬場康友さん(昭和57年生 三島町)
1月15日奥会津の各集落では歳神様をお祀りして、五穀豊穣、無病息災、安全祈願をする「サイノカミ」が行われる。
小正月の伝統行事で、三島町では国の重要無形民俗文化財に指定されている。
山から御神木をお迎えし、その周りに脱穀した藁や採ってきた萱などを巻き、てっぺんの恵方に“オンペイ”と呼ぶ護符や縁起物を飾る。
厄落としとして、厄年の男性が御神木の提供やサイノカミへの点火を行う。
今年厄年となる馬場康友さんに話を聞いた。
「もうそんな歳(42歳)になったのかって、びっくりされました」
小学生の頃からばんば踏み(サイノカミを立てる会場の雪を踏み固める作業)に参加し、中学生くらいから作り方に参加するようになったという。
御神木の周りに藁を巻く作業は、左右の縄を持った人同士の呼吸が合わないとなかなかまとまらない。
少しでもタイミングがずれて緩みがあると、崩れてきてしまう。
康友さんは自分のできることを探して、今回は巻き方のフォローに徹していた。
みんな程よくお神酒が回り、ご機嫌に笑いが混じる中、各々が自然と自分の持ち場を見つけて作業にあたる。
集まってひとつの大きな作業を共有する場は、年齢や家族を越えた集落での関係性を構築するのに大切な機会だという。
「自分は、これがあるから集落での作法が学べたと思う。一体感を感じられるのも、好きです。団結した、“絆”みたいなもので」
若い人が町を出て、年々高齢化は進み、昔から伝わる形、大きさでの継続が難しくなる集落も増えている。
そんな中、今年は12m、三島町内でも一番の高さを誇るサイノカミはなぜ続くのだろうか。
「神様を大切にする気持ちや、命の尊さ、他人への感謝の気持ちが、この集落で暮らすひとりひとりに根付いているからだと思う」と、康友さんはいう。
昔から、作ったものを差し入れてもらったり、困ったことがあったら手伝いにも行く。
康友さんは、小さな集落だからこその“家族ぐるみの付き合い”の中で育ってきたという。
「今年のサイノカミは、自分の成長を見守ってくれた集落の人に、今の自分を報告できる機会でした」
終盤、長老が監督となって指揮を執り、「やーんさーんさーんさーん、よーいしょっ!」の掛け声と共に3回の胴付きで真直ぐにサイノカミを立ち上げる。
康友さんは学校を卒業してから介護の仕事をしている。
「町長をしていた祖父や、集落のために活動する父の影響と、自分を助けて育ててくれた集落のみなさんがいたから、人の役に立てる仕事がしたいと思ったんです」
今年の抱負は、出会う人、関わる人と仲良くなって、そこからたくさんのことを学んでいきたいと語る。
夜、集落のみんなが見守る中、「わーっ!!」という歓声と共に、火柱が勢いよく天に立ち昇った。
「今年も、きっといい年になります」
(2023年1月に取材したものです)