【わっさな暮らし】向き合う姿勢 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】向き合う姿勢

2024.01.01

井口 恵(いぐちめぐみ)

諏訪利晴さん(昭和28年生 三島町)

道具の年取り
1月15日小正月、日々お世話になっている道具に感謝を伝え、労う日だ。
私にとってこの行事は、奥会津で出会った伝統行事の中で特に衝撃的だった。

「毎年これをやらないと気が収まらない」
諏訪利晴さんは、大工歴50年以上のひとり親方の職人だ。
今も身軽に、頼まれた現場に手伝いに行っている。
実家は農家で、道具の年取りは物心ついた頃から小正月には親が必ずやっていたという。
自分でやるようになってから、供えるものは鍬や鎌など農具から、大工道具に代わっていった。
「当たり前だけど、これのおかげで仕事ができる。なくてはなんないものだかんな。これからまた1年、お世話になりますって感謝しんなんねぇ」

ひと現場終わるごとに、油を差したり、欠けや割れを直したり、道具箱を開けてひとつずつ丁寧に手入れをする。
「道具を見ると、その人がわかんだ。道具を大切にする人は、いい仕事をする」。
道具は一度手に入れて大事に使えば何十年も持つ。
「この鉈は、じいちゃんが使ってたのだ。ちゃんと手入れしてればいくらでも持つわ」
中でも一番お世話になるのが“指矩(さしがね)”だ。
長さや角度を測る計測器で、これ1本が家を建てる基準を決める。

「かつて現場で出会った40代の若い大工は、道具をひとつひとつ布で包んで管理していた。
就いてた親方を見習って、それはそれは丁寧な仕事ぶりだった。大したもんだなぁって思ったよ」。
仕事の中で他人の目に触れるのは、結果であることが多い。
目に見えないところ、その工程については、なかなか知り得る機会はない。
しかし、結果の裏側は、きっとその見えない工程の蓄積だ。
道具への向き合い方が、仕事との向き合い方であり、自分自身への姿勢でもあるのだ。

 別宅の道具の年取り

自分ひとりでできることなんて、実はすごく限られている。
私がものづくりをする中でも、切り出し、はさみ、くじり、ペンチ、ニッパー…たくさんの道具を使っている。
今こうして文章にまとめる中でも、ノートにペン、パソコン、スマートフォン、カメラ…ないと記憶しておくことすらできない。
“道具”は、私たちが生きていく中で、暮らしていくために、“なくてはならないもの”の総称だ。
しかし、無意識に、そのどれもが“あって当たり前”だと思っている自分がいる。
なんてことだ。今まで道具に“感謝”を感じた瞬間が、どれくらいあっただろう。
ものにも情報にも溢れて溺れそうな中で、自分の仕事を支え、暮らしを支えてくれる“道具”というパートナーの存在を、すっかり忘れかけていたことに気づかされた。

「道具も喜んでるわぃ」
お膳を並べて手を合わせた利晴さんが、気持ちよく笑う。
優れた新しい技術や製品が日々生まれ、壊れたら買い替えて回る現代だからこそ、一年に一度、この日を大切にしていきたい。