須田 雅子(すだまさこ)
昭和村大芦集落の「ファーマーズカフェ大芦家」(以下「大芦家」)は、ただのカフェではない。新型コロナウィルス感染拡大前には、村の人と新規移住者の交流の場となる「大芦家の集い」を頻繁に開催してくれていたし、映画上映会や勉強会など、様々なイベントを催してくれた。癒しのカフェ空間としても、もちろん素敵なのだが、私にとってはいろいろと勉強になるカフェでもある。
大芦家で上映される映画は、社会問題をテーマとしたドキュメンタリー作品が多い。一例を挙げれば、金山町の鉄砲撃ち(鉄砲ぶち) 猪俣昭夫さんを追ったドキュメンタリー映画『春よこい クマと蜂蜜とアキオさん』(安孫子亘監督 ミルフィルム 2015年)などだ。アフタートークでは、安孫子監督と昭夫さんが語ってくれた。
マスターの佐藤孝雄さんは、「なかよしバンド」のメンバーで、シンガーソングライターでもある。奥会津のドキュメンタリー映画を数々製作している前述の安孫子亘監督の映画『知事抹殺の真実』(ミルフィルム 2016年)のエンディングには、孝雄さんの曲「本当のこと」が使われている。
昭和村、南会津町、下郷町、会津美里町の四町村に連なる山の尾根に、風力発電を建設するという日立造船(大阪)の計画が持ち上がった2022年7月には、一人先陣を切って反対運動を開始した「なかよしバンド」メンバーの菅家博昭さんを講師に迎え、大芦家で勉強会が開かれた。孝雄さんは率先してLINEグループでの情報共有を行い、ニュースレター「じねんと」やブログでの呼びかけも続けた。大芦家さんでの勉強会が、建設計画への反対運動を加速させるきっかけになったことは間違いないのではないかと思う(住民と村役場の反対運動が功を奏し、8月初旬に建設計画は白紙撤回された)。
大芦家での普段の勉強会は昭和村の地域学的なことが多い。村には様々な専門分野を持つ研究者や大学の先生が来られることも多いので、そういった方々の話を聞く機会にも恵まれる。
そんなわけで、大芦家は言ってみれば “社会派” カフェの顔を持つ。でも、だからと言って、このカフェのあたたかくやわらかな雰囲気が損なわれることはない。お店のブログを見て、カフェの雰囲気とのギャップに驚く人もいるかもしれないが、ブログに見られる強い調子はカフェには見られないので、安心してマスターとの会話や食事を楽しみ、山奥のカフェでのゆったりとしたひとときを味わっていってほしい。
ファーマーズカフェ大芦家 … https://zinento.exblog.jp/
ミルフィルム … https://www.mirufilm.com/