【わっさな暮らし】只見川の赤い石 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】只見川の赤い石

2023.12.01

井口 恵(いぐちめぐみ)

宮崎拡さん(昭和34年生 金山町)

レッドジャスパー(赤玉石、赤碧玉)…
深い赤は、大地のエネルギーを象徴し、心身を調和へと導いてくれる。
古来より「生命の源の石」として、魔除けやお守りとされてきた。

石に魅せられた宮崎さんの採掘熱は、10歳頃近くの畑で見つけた小さな矢じりから始まった。
縄文時代の遺跡が点在する奥会津では、ほんの少し前まで、耕したばかりの畑に遺物が浮かび上がってきていたそうだ。
「鍬で畑を耕していた時代は、耕運機のように連続衝撃を与えてなかったから、完全形で拾えたんだよね。当時はなんだかよくわからなかったけど、矢じりを見つけた時、胸が高鳴った」
社会人になってからも、転勤先や旅行先で足元に目を向け、気づくと遺物探しが趣味になっていった。(発掘調査跡地や、畑の持ち主に断ったうえでの表面採取)
「この矢じりの“割れ”が好きなんだよね。これは割れたんじゃなくて、作ってる途中に割っちゃったんだと思うんだ。失敗して割っちゃったんだけど、黒曜石で貴重な石だから、きっと無駄にしたくなくて、補修して完成させたんだろうなぁって、制作者の価値観にまで共感したりするんだよ。縄文人の人間味を感じられて、いいんだよねぇ」
数千年前も、今も、きっと変わらないところは変わらない。
「自分が割っちゃったら、パテで埋めるか、サイズを小さくするか、模様にしちゃうかなぁとか、同じ視点で眺められるのが楽しいんだよね」
話を聞きながら、目の前の宮崎さんが縄文の人と繋がる瞬間が、見えた。

遺物に想像力を掻き立てられ、勾玉へと夢が広がっていった頃、新潟に転勤になった。
対象は自然と石に移行し、今度は糸魚川に足繫く通って翡翠探しに明け暮れるようになる。
石がどこに溜まりやすいのかを調べたり、河川の出来方や気候、地層について、本を読んで勉強したり、すべて独学と経験から勘を育てていった。
「翡翠採取の聖地だけど、簡単には見つからない。翡翠っぽいふりして実は翡翠でないのがきつね石、石のふりして本当は翡翠なのがたぬき石。探すほどに夢中になって、いくらでも楽しめる」

山登りが好きだった宮崎さんは、35年ほど前に奥会津の山に行く途中、赤石の岸壁を渡ったことが記憶に残っていた。
定年退職し金山町に戻って来たタイミングで、かつての記憶を辿って只見川沿いにその思い出を探しに行った。
国内の赤玉石産地としては佐渡島が有名だが、地質的に共通しているところがあるのではないかと興味を持って歩き回ったところ、赤玉石を探し当てた。

「オレ、持ってんだよね」
未踏の宝探しへの、静かな自信が伝わってくる。
家の周りは赤玉石をはじめとした石、石、石、石、、、に囲まれていた。
原石は耐水ペーパーで2日くらい磨くと、鏡面状に磨きあがるそうだ。
「磨いて加工した方がいいのか、原石のままの方がいいのか、石の楽しみ方は感覚だよね」
赤玉石は硬度6~7(10段階で一番硬いダイヤモンドが硬度10)で、火打石としても使われていた。
「磨いてみて輝き出すと、こんなきれいになって、間違いなかったって嬉しくなる。かっこいいもんなぁ。ドキドキするね」
石にライトを当ててその輝きを説明してくれる宮崎さんの顔は、間違いなく石以上に輝いている。

今年の夏は全国的に雨が降らず、水量が少ない。
普段は見えていない川底や岸壁に立ち入れるチャンスだ。
雄大な只見川が生み出した、真っ赤な力強いエネルギーを放つ縁起石。
ふと足元に目を向けると、奥会津の自然が生み出す宝物が、輝き出す。