【奥会津探訪】 南郷文化祭で刺し子体験 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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【奥会津探訪】 南郷文化祭で刺し子体験 

2023.10.15

須田 雅子(すだまさこ)

11月3日の文化の日(祝日)は、奥会津各地で地域の文化祭が開催される。2022年、私は昭和村から紅葉の美しい新鳥居峠を越えて、南会津町の「南郷地域文化祭」に出かけた。体育館を会場とし、編み組み、木工、生け花、写真など様々な展示コーナーがある中、「南郷刺し子会」の展示ブースに行ってみた。

見ると、刺し子の体験コーナーがある。「やってみませんか?」と声をかけられ、思わず「はい」と言ってしまったが、実は、私は超がつくほど不器用だ。ここ数年、「からむし(苧麻)」の聞き書きをしているものだから、周囲の人たちのほとんどは手仕事を楽しんでいる。日々、そういう人たちと接しながら、自分は手仕事をやらない。やっても体験程度だ。父ではなく母に似ていたら違っていただろうに…と思う。

体験コーナーに腰を下ろすと、紺地の木綿の布に白い糸できれいに刺し子が施された見本の中から、難易度の低そうなものを探す。私が選んだのは、直線だけで成り立っている「亀甲花刺し」文様だ。長寿を意味する吉祥柄を、白い色鉛筆で下書きをしてから刺していく。

教えてくれたのは「南郷刺し子会」の会長の馬場純子さんだ。純子さんは、私が昭和村のバイト先で一緒に仕事をしている人のお母さんだ。世の中狭い。

「南郷刺し子会」の会長の馬場純子さんが刺し子のコツを教えてくれる。

きれいに刺すコツは、一辺の糸目の数や長さ、間隔を揃えることだという。針仕事に慣れていない私が適当に運針をしても、当然のことながら思うようにはいかず、元に戻してやり直すことになる(針を布に対して直角に立てて後ろから引っ張れば元に戻せる)。

また、二本どりの木綿糸は、刺すごとに簡単によじれてしまう。表に出る二本の糸がよじれず、しかも少しふっくら感が出るように刺すとなると、ひと針ひと針、整えながら、よほど丁寧に進めなければならない。集中力と根気のいる仕事だ。

やっている途中で、「もうギブアップ!続きはやってもらえませんか?」と言いたくなるのをグッとこらえ、それなりの形になるまでやり終えた。仕上がりに満足しているわけではないが、「時間の都合上仕方ない」、「初めてにしては上出来」と自分に妥協を許す。

刺し子体験をなんとか終えた上で、改めて南郷の古い刺し子絆纏を眺める。体験前後で私の見る目が違っている。

古い南郷刺し子絆纏(全体)
古い南郷刺し子絆纏(部分)

なんてきれいな仕事だろう。手業の見事さに惚れ惚れしてしまう。昔の女性は針仕事などお手の物だったに違いないが、それにしても物凄い。眺めていると、伝統的な「麻の葉」、「七宝」の幾何学文様が交差する迷宮に迷い込んでしまいそうだ。一体どんな女性が、忙しい中、薄暗い光のもと、こんなにも完璧な刺し子を成し遂げたのだろう。出来上がったときの喜びたるや、いかなるものだったろう。

そして、この刺し子絆纏を受け取り、身にまとった人の意気揚々とした姿!角袖だから、家主になった一人前の男であったはずだ。これが妻の手業だったとしたら、どんなに誇らしかったことだろう。

針仕事をしなくなった日本女性。「退化」を思い、じっと手を見る。