井口 恵(いぐちめぐみ)
舟木澄江さん(昭和13年生 三島町)
本、ゲーム、TV、動画、映画、カラオケ、ショッピングセンター、パチンコ…
奥会津にいても、少し足を延ばせばお店もサービスもある。
自宅にいても買い物はできるし、オンラインで世界中の人と繋がれる。
ネットからいくらでも欲しい情報は手に入る。
友達、家族とでも、一人でも、今はたくさんの娯楽が溢れている。
三島町間方の山深い集落で、かつて盛り上がりを見せていた大人の遊びの話を聞いた。
この地域の女性は、本当に楽しそうに「いとっぴき」の思い出を話してくれる。
人数分の紐を用意して、その1本だけに穴の開いた5円玉を束ねた錘を通す。
紐の先端をまとめて結わえ、親になった人がその紐束をえいっと投げ、その中から一斉にそれぞれ1本ずつ選んで引いていく。
「かっつぁれ!!」
錘のついた紐を引いた人が当たりで、声をあげてすべてのかけ金を回収する。
「10人集まれば10回できる。小さい金額だけんど、結構盛り上がんだ。円になって(紐が)取れないくらい集まったりもした」。
紐を引くときに賑やかしのひと文句を加えたり、お互いを馬鹿にしたりして、1本1本の結果が笑いに溢れて白熱していたそうだ。
「嫁さんには田んぼに働きに行った振りして、土蔵の軒下に莚敷いていとっぴきやってたりしたなぁ」。
手軽に誰でも何人でもできるので、どこかでやっているとあれよあれよと人が集まってくる。
畑仕事はそっちのけで、日陰に場所を移しながら、時間が経つのも忘れて夢中になったそうだ。
「田んぼに行ったのに袴が濡れてねぇとおかしいから、帰る途中で濡らして、『草取りしてきただぁ。』って言ってな」。
澄江さんが本当に楽しそうに笑う。
お金を賭けてはいるが、生活のかかった真剣勝負のようなものではなく、あくまでも“遊び”。
シンプルなルールのため、年齢に関係なく誰でも気軽に加わることができた。
主に女性と、時間を持て余していたお年寄りの方々に人気があったようだ。
「暇だから、年とった人が楽しみにしてたんだ。ばぁちゃんたちがいっぱい集まった。子供には『どっかいってろー』て言って、わがら(自分たち)で夢中になった」。
この地域は一大「いとっぴき」エリアだったようで、遠くの集落から歩いて「いとっぴき」をしに来る人もいたという。
「イカサマなんてないの。みんな裏表ねぇからな。そのまんまだから、仲良くなれた。良いことばっか言ってても長続きなんてしねぇから」。
最近友達数人と円座で“遊ぶ”ことをしたのは、いつだろう?
みんなで勝ち負け、当たり外れの興奮を共有したのは、いつだったかな?
と、ふと思った。
最近は、ひとりひとりが画面に向かって夢中になっている。
ゲームの向こうには対戦相手がいて、その中ではコミュニケーションも取られている。
「昔は金はなかったけど、そんなに苦しいと思ったことなかったな。手元にあるすこーしのお金で十分楽しめた。なんでかなぁ。今は金ねぇと大変だ」。
確かに、現代の娯楽はお金がないと享受できないものが多いのかもしれない。
時間も場所も自由にはなったけれど、小さくとも“みんなで楽しみを共有できる遊び”の機会は減った気がする。
引いた紐の先に繋がっていたのは、円座になったみんなの、ドキドキワクワクの眼差しだった。