【オオマタ暮らしのたより】 暑い暑い夏 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【オオマタ暮らしのたより】 暑い暑い夏 

2023.08.15

菅家 洋子(かんけようこ)

 昭和村で、こんなにも暑さの厳しい夏があっただろうか。強い日差し、33度、34度の表示が途切れず続く。それでも、朝晩はひんやりとして過ごしやすいのが昭和村。しかしその昭和村の持つ「宝」のひとつである朝晩の涼しさにも、少し陰りが見える。ずっと耳にしてきた「夏でも窓を開けて寝ると風邪を引く」という言葉も揺らいでいる。毎年こんな暑さが続くの?もっとひどくなるの?この先人類は、この地球で生きていけるのだろうかと、本気で恐ろしくなる。いや、もうずっと前から、温暖化の警笛は鳴らされていた。何周も遅れた、情けない危機感だ。
 かすみ草・草花栽培農家の我が家、こう気温が高いと、花もどんどん咲く。開花をする、そのスピードも、これまでとは違うような感覚がある。この時期は、睡眠時間を多少削りながらでも仕事に精を出す農家の踏ん張りどころ。しかしながら、それでも間に合わない、猛威と言っていいような咲き方にも感じる。日照り、高温、水不足のなかで農業を営む人たちは今、どんなことを感じ、考えているだろう。この切なる実感を、地球温暖化の抑制のために、なにかひとつ、行動に変えていきたい、みんなで。
 もうひとつ、この季節の仕事として「カラムシ引き」がある。適期としては7月20日前後、夏の土用の頃からが始めどきと言われる。我が家では、花の仕事に少し隙間のできた7月29日に、今年最初のカラムシ引きを行った。刈り取り、皮剥ぎをしてくれるのは、義父セイイチさん(90)。刈り取って葉を落としたカラムシの茎は、鯉の泳ぐ池に浸される。池には、冷たい沢水がたえず流れ込んでいる。数時間後、皮を剥ぎ、緑色のテープをまとめたような束は、池のそばに据えつけた四角いプラスチックのプールに浸す。そこにも、冷たくあたらしい沢水を常に流し込む。淀んだ水の中に置いてしまっては、カラムシは傷んでしまう。豊富な沢水があってこその、カラムシ引き。

 

取り出したカラムシの繊維

 毎年カラムシ引きをはじめる前には、家の裏にある山の神さまにお参りに行くことにしている。「クマとハチに気をつけろよ」と家族に声をかけられ、ひとりお宮へ向かう階段をあがった。上りきり、道の先にお宮の見える景色を目にしたとき、ふいにこみ上げるものがあった。穏やかで、確かな存在。感染症の影響で、数年間お祭りは行われていない。お宮の中は、動物が入った跡があり、荒れていた。雪につぶされないよう、冬には何度も雪降ろしをして、守っているつもりではいたけれど、建物は年々傷み、もろくなっていく。人の存在、営みが、風化のスピードに飲み込まれていくようだ。お宮の中には、10年以上納めてきた、カラムシの繊維が少しずつ掛けてある。この場所も、長くはないかもしれない。感傷的というより、いよいよ現実的にそう思う。

 それでも、今年もこうして、山の神さまに挨拶に来ることができた。カラムシ引きができるということは、今日まで家族がみんな元気でいられたという証。なんだかもう、それだけで充分だと、私にとっての「カラムシ」の存在は、時を経て変化している。