【わっさな暮らし】 未来に続く街道 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

奥会津に生きる

【わっさな暮らし】 未来に続く街道 

2023.08.15

井口 恵(いぐちめぐみ)

五十嵐政人さん(昭和28年生 三島町)

「わたしたちは、どこへいくのか」。
政人さんにとっての、大きな歩みのテーマだ。

仲間と共に作った有機栽培米で、「會津 銀山街道」という純米大吟醸酒を造っている。
年間800本前後、市場には出回らない幻の酒、ともいわれている。
「搾りたてのお酒は酸味、甘み、辛味、渋み、苦みなどが複雑に絡み合い、ひとつの宇宙を形成している。お酒は生きているから、環境、気候、その時の体調で飲むたびに感じるものが違う。変化を楽しむのが、お酒の面白いところ」。
低温で発酵を止めているが、ゆっくりゆっくり、わずかな微発酵を続ける。
「お陰様で、今年はお米の収穫も良かったし、蔵元の頑張りでめちゃくちゃ元気な酵母ができた。これから1年かけて、できたて(生)、火入れ、雪室、冷やおろしと、4回は新鮮な感覚で楽しめる」。
熟成していく変化を嬉しそうに語ってくれた。

小さな頃から田植えや農作業を手伝わされたという。
ジョウバン(スジヒキともいった)で田んぼに線を引くのが、子供の頃の政人さんの仕事だった。
当時の田んぼは沢沿いにも開墾されており、今みたいに四角くない。
地形に沿った入り組んだ変形型の田んぼに、どうやったら隙間なく1本でも多くの稲を植え付けられるか、毎回工夫を凝らしていたそうだ。
「審美眼を養った経験だった。それが、今にも繋がっている」。
機械的にできないし、正解があるわけでもない。
ただ、自分が描く理想と目標に向かって、どのように線を引くか。
引いてみた線は、もしかしたら余計な手間を生むかもしれないし、もしかしたらまだ見たことなかった感動と出逢えるかもしれない。
一見関係性のないことでも、ひとつの取り組みが次に繋がるという相乗効果を、今では確信している。

「銀山街道は今まで自分が生きてきた道であり、これからもずっと続いていく道。お酒が生まれたのも街道がご縁。農業(agri-culture)をベースとした“文化”(culture)を立体的に捉えて、付加価値を付けていく取り組みがしたい」。
NPO法人わくわく奥会津.COMという団体を通して様々な活動を続ける。
政人さんは、街道は街と鄙(ひな)を繋ぐものであり、行き来そのものに意味があるという。
会津若松~只見までを繋ぐ古道銀山街道を歩いて奥会津の気候や自然を感じてもらう体験、山からいただいた山菜やきのこ、土地で作ったそばや野菜を食べ、うまいお酒を飲み交わす。
それが心身の健康を導き、より前向きな社会を作る源になると信じている。
また、情報化社会により自然と距離ができる時代だからこそ、豊かな環境で子供たちを育む経験にもなると考える。
あらゆるものを巻き込みながら、異質な物を繋げる相互作用に期待し、6次産業化を目指している。

酒粕を田んぼに還す

「飲むタイミング、環境、飲む人によって感じる香りも味わいも違う。発酵が止まらない、からこその面白さはそこにある。それぞれが受け取った感性を論理化していくことが、新しいアイデアに繋がり、未来のイメージを拡大させると思う」。
政人さんが歩む銀山街道に続く奥会津の未来は、ゆるりゆるりと確実に、熟成を続けている。