鈴木 サナエ(すずきさなえ)
山奥の只見の、そのまた奥に笠倉山は聳え立つ。聳え立つ、と言っても千メートルにも満たない山なのだが、何せ、会津百名山といえども、登山道がない、藪山である。私の技量ではとても登れる山ではないと諦めていたのだが、ガイドをお願いしたから一緒に登らないかと、いつも奥会津の情報をいち早く教えてくださるMさんご夫妻から有難いお誘いを受けた。一瞬、登れるかな、と迷ったけれど行かない選択技はない。
よく晴れた当日、駐車場で4人が待ち合わせて、高橋ガイドの車に、林道終点まで乗せていただく。私達だけだったら、車で終点まで入るのさえ難しい、と思える荒れた林道だった。二十分ほど沢を右手に歩き、ちょっとした杉林の中の広場に着いた。ここが登山道入り口らしいが、もちろん標識らしきものは何もない。登り始めて間もなく、只見の山らしい急登となるが、高橋ガイドは古いピンクのビニールテープを目ざとく見つけ、要所要所に新しいテープを木に結わえながら、迷いもなく進んでゆく。
私達三人は藪を漕ぎ、倒木を跨ぎ、時にはかいくぐり、ついていくのに行くのに精いっぱいで、足元にはイワイチョウが群生し、ツルリンドウの艶やかな実も見えるし、シャクナゲも目立ってくるが、観賞の余裕もないまま、稜線にたどり着く。稜線に出ても道は平たんであるはずもなく、ただ秋晴れの最高の天気に感謝しながら歩き続け、やっと山頂にたどり着いた。
こんなところにも、ちゃんと三角点の標石があり、独立峰からの展望は今までの藪漕ぎの苦労を忘れさせてくれる。眼下には蒲生岳と鷲ヶ倉が鋭く聳え、遠くの浅草岳がことさらに美しい。それにしても、低山の山々には見事な雪食地形が連なり、人を寄せ付けない、冬の豪雪を思い起こさせる。ここに住んでいても、これだけの雪食地形を見ることは少ないから、思う存分愛で、明るい日差しの中でランチタイムとなる。そして、酷い藪漕ぎの間でも写真を撮るのを忘れないMさんご夫妻は、この山一番の、素晴らしい笑顔でのショットタイムともなった。
下山は登ったところを忠実にたどる。しかし登りより下りは、さらにわかりにくく、二度三度小さく迷ったが。高橋ガイドは、あんなのは迷ったうちにはいらない、と言う。妙に納得し、とりついた登山口の広場に着いた頃には、とっぷりと日が暮れていた。見おきしておいたスギモダシを採ることもままならず、ヘッドランプを装着して、不安定な山道を引き返した。車が見えた時は内心、ほっと胸をなでおろした。