【山と草花】 野草・雑草食べ歩き(そのⅡ) | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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【山と草花】 野草・雑草食べ歩き(そのⅡ) 

2023.07.01

鈴木 サナエ(すずきさなえ)

・・・スギナ・・・

 もう二十数年前、友達数人で、京都出身の若い女性のTさんを頼ってカナダに遊んだ。
 Tさんはカナダネイテイブの方の家に数年かけて逗留し、日本とカナダを往復しながら、ハーブを学んでいた。ハーブを学ぶ、と言っても、日本のようなおしゃれな印象はなく、滝に打たれたり、瞑想もするという、ハーブというよりは哲学に近いかと思える本格派なのだが、Tさんはごくごく普通の女性にみえた。そのTさんが、瓶に入れた綺麗な緑の粉を持っていたのが、スギナだった。今でこそ、日本でもよく目にするスギナの粉だが、当時はびっくりした。Tさんはそういうのも販売している様子だったが、粉にして保存しておけば、お茶、スムージー、ケーキ、スープと何でも使えると教えてくれた。
 また、2011年の福島原発事故の後、ヨーロッパで薬膳を教えているという、オオニシ恭子さんの講習会に参加した。「福島の子供たちを救うのはこれしかない!」と、やむにやまれず来日されたオオニシさんの手にあるのが、やはりスギナの束だった。ミネラルの宝庫と言われ、手に負えないほどの繁殖力を持つスギナだから、底知れぬパワーを持ち、デトックス効果も抜群と学んだ。
 私は今、通信教育で少し薬膳を学び、無農薬で畑仕事に勤しみ、なるべく身体にいい食事を提供しようと、小さな農家レストラン・農家民宿を営みとしている。そこで、スギナがいくら身体にいいとわかってはいても、農家が最も嫌う雑草を食事のメニューに加え、天ぷらにして食べていただくのは、なんだか申し訳なくもあり、少しの勇気が必要だった。それでも、雪解けの後、つくしんぼがニョキニョキと姿を現した周辺の、たくさんの柔らかなスギナを見るたび、Tさんやオオニシさんの顔を思い浮かべながら、「今年もありがとう」と、唱えている。

・・・花をいただく・・・

 実家の母は、よく菊の葉と花の天ぷらを揚げてくれた。見た目も綺麗で、菊の花も葉も、独特の秋の香りが何とも言えず好きだった。菊の花は他にお浸しや酢の物にして普通に食べていたが、関西や九州の方では食べる習慣がないらしい。
 そんなことを思い出しながら、他に食べられる花がないかと探していたところ、ニセアカシアの白い花が食べられるという。因みにニセアカシアは軽井沢でも街路樹になってたくさん咲いていたが、蜂が蜜を吸い、上質な蜂蜜が採れるのだという。ニセアカシアは奥会津では6月初めころ、川原近くで咲いているのをよく見かける。繁殖力も強く、むしろ、外来種として問題視されていると聞いている。低い位置に咲いている花を見つけたら是非天ぷらがお薦めだ。豪華な一品となる。
 ノカンゾウは、夏になると、野原で見かけるオレンジ色の花を咲かせる百合の仲間で、春の出始めの若い葉は、少しぬめりがあって、甘くて、美味しい。まだ畑に何も収穫するものがない早い時期の緑が嬉しくて、お浸しを始め、炒めたり、和え物にもしている。そして花の時期は、オレンジが鮮やかな蕾も花もやっぱり天ぷらがお薦めだ。ノカンゾウは全草が薬草になるということだが、一度にたくさん食べるわけでもないので、あまり気にせず、美味しく頂くのがいいと思っている。
 以前、お店で藤の花の塩漬けを桜の花の塩漬けなどと一緒に見かけたことがある。それからずっと藤の花の天ぷらを試みようとしているのだが、いまだ果たせていない。桜が終わったころに咲き始める藤の花は正に藤色で美しいけれど、そのたくましい蔓は巻き付いた宿主の樹を締め殺してしまう。最近、山に咲き誇る藤の花が多くなっているのは、山が手入れされなくなってしまったからなのだろう。ちょっと恐ろしくもある藤の花だが、やはり今年こそは一度食べてみようと思っている。 

 ご馳走とは、勿論、決して豪華な素材を使うことではなく、心を込めたおもてなしだそうです。せっかく、奥会津に住んでいるのだから、時には、馳せて、走って、野山を駆け巡り、手間暇かけた豊かな食生活をおくりたい。