~奥会津文化施設関連連携企画展「奥会津の縄文」の成果と意義~
柳津町文化財専門アドバイザー 長島雄一
表題のとおり奥会津文化施設関連連携企画展の図録『奥会津の縄文』が第47回福島民報出版文化賞特別賞を受賞しました。ここではあらためて、この企画展の成果と意義について述べてみたいと思います。
奥会津7町村(柳津町・三島町・金山町・只見町・昭和村・檜枝岐村・南会津町)が加盟する只見川電源振興協議会は、「第4期只見川電源流域振興計画」の中にある「奥会津らしさの整理・継承」施策として、毎年、テーマを決めて企画展を行ってきており、2023年度は「奥会津の縄文」が設定されました。
コアメンバーを中心に7月22日のオープンに向けて、7町村の文化・収蔵施設で遺物の選び出し作業、写真撮影、図録の執筆・編集そして展示と、各自が本務を抱えながら行うというハードなものとなりました。
しかし、言い換えればこの期間はコアメンバー・各町村・事務局間の協力と調整能力が試され、様々な問題をクリアしながら前進した実り多き期間であったとも言えます。
期間内に7館全体の入館者は計約15000人を数え、遠くは九州・四国・近畿地方などからわざわざ来訪された縄文ファンもいらっしゃいました。最多は地元福島県でしたが、関東地方や新潟県からの来訪者も目立ちました。また考古学研究者も多数訪れ、本展への関心の高さを窺わせました。折からの縄文・土偶ブームや図録の無償配布も来訪を後押ししたものと推測しています。以下に成果をまとめてみます。
【学問的成果】
① 今まで情報に乏しく、ほとんど公開されて来なかった奥会津の縄文関係の資料が日の目を見、一斉に公開され、多くの方々が観察できる絶好の機会となったこと。
② 特に注目すべき新発見の資料(南会津町 爪形文土器(草創期)、人体像把手付土器(柳津町 中期)、沼沢火山関連資料(三島町 前期)、アオトラ石製磨製石斧(只見町・三島町)、会津産の石器石材など)を展示・公開できたこと。
③ 関連行事においては著名な研究者を招聘し、縄文時代の植物利用や沼沢火山に関する最新成果など、ハイレベルな講演等を聞くことができたこと。
④ 普段は入れない収蔵庫に入り、担当者の説明を受けながら観察・質問し、また石器で魚を切るメニューなども取り入れたバックヤードツアーによって、非常に熱心な考古学ファンを獲得できたこと。
⑤ 研究者はもちろん一般の方々が、考古学や埋蔵文化財への関心を深める機会となったこと。
【社会的成果】
① 奥会津の文化施設(7施設)が連携し、考古資料を一斉に公開する初の試みとなり、奥会津地方の自治体・文化財担当者及び関係者の意識の向上、連携へとつながったこと。
② 本企画展に関わるメンバーの大半は地元に住む、あるいは地元と深く関わっている方々であり、そうした人々の結束と協力によって大きな企画を実現した貴重な機会となったこと。
③ スタンプラリーなど域内の7施設を「周遊」する形を採ったことによって入館者は増加し、また宿泊を伴う人々の移動・交流が生まれ、奥会津地域が活性化し、経済的な効果をもたらしたこと。
④ 周遊によって縄文を中心とした考古分野だけでなく、奥会津の文化を育んだ風土や地域全体の雰囲気を来訪者が直接肌で感じ取り、奥会津を「あるく・みる・きく」そして「知る」機会となったこと。
⑤ 電源流域振興協議会や「奥会津ミュージアム」のHPによる情報発信、また個人レベルの各種SNS情報によって縄文展を知り、来訪に結びついたこと。
⑥ 石生前遺跡の人体像把手付土器をモチーフとしたパフェなど、縄文展にちなんだ商品が地元スタッフによって考案・制作されて好評を博し、企画展終了後も観光施設内のメニューとして定着するなどの動きを生み出したこと、などがあげられるでしょう。
【今後の課題~企画展を通して】
奥会津地域内の文化財保護体制は未だ充分とは言えない状況にあります。企画展の準備・開催期間を通じて各自治体が体制整備に向けて努力すると共に、県や国の積極的な支援・指導が不可欠であるということも痛感しました。特に専門職員を配置していない自治体の体制の強化を切に願います。
(第65回福島県考古学会大会発表要旨を一部改変)
*図録『奥会津の縄文』は下記から閲覧およびダウンロードすることが可能です。https://openokurairi.net/s/open_okurairi/item/1328