菅家 博昭(かんけひろあき)
2月に、金山町玉梨に保管されている民具資料の3D映像による撮影が行われ、撮影する資料の選定に立ち会った。奥会津の冬に関する民具が2024年の奥会津地域連携事業のテーマにもなっており、そうした選定をした。
イナワラで制作したゲンベの映像を拝見した。 https://www.facebook.com/okuaizunet/videos/810868157727202
この映像では自分で好きな場所の詳細を見ることができる。イナワラで制作されたゲンベは、靴底前方に滑り止めのブラシが付いているのが、新鮮な感覚で伝わってくる。
これまで写真は3方向から撮影されるものだったが、立体的にディテールを観察することができる。こうした画像を見た後で、現物を実際に見ると、より視点が多角的になる効果的な記録保存手法である。
今後さらに付加すべきは、この用具の素材やその素材が生育する環境写真(つまり風景写真)、利用場面の冬の風景、実装した画像なども必要になってくるだろう。
これまで民具の実測図が紙にペンで描かれてきたのは、制作方法を解読するための観察記録として、復元制作が可能なように詳細に記録することが求められていた。
昭和30年ころまで日常的に使用されていた生活用具の多くは、実生活での役目を終えたとして保存対象となっているが、民具の哲学(その思想)について、改めて検討すべきだと思う。
それは、ひとつの素材植物を乾燥させたり寒晒しをしてカビの発生を抑え、叩いて素材のなかに空気層を作る断熱効果や柔らかさを加工するなど、必然の工夫がある。意匠も地域により異なり、作り手の美意識も感じられる。
日常用具なのに、とりわけ編み組の技法に装飾はなぜ必要なのだろうか?過剰装飾とも思える美は、なぜ必要なのだろうか?
引いて道具類、生活用具類、民具類を見て気づくのは、多くの用具が一種類の植物素材のみで制作する、という点。そして、それが廃棄されたあとに土や肥料になることを想定している点である。
イナワラの民具は、破損したら堆肥場所に棄て、田畑に戻すことになる。そうした点から、腐りにくいものを化粧素材として混ぜることは無い。
写真のゲンベもイナワラのみで作製されている。
こうした民具の思想は、説明して理解していただくのではなく、こうした3D画像を見て、同じ素材のみで制作していることをまず気づけるような、あり方が必要である。
山村では、コメを食することは少なく、雑穀主体の暮らしが長く続いた。山間の冷涼な環境で収穫量がとても少ないイネを、なぜ栽培してきたか?
私は、万能素材となるイナワラを確保するために、イネが必要だったのではないか、と考えている。