【奥会津の介護事情】自宅で看取る ~住み慣れた家で~ ② | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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【奥会津の介護事情】自宅で看取る ~住み慣れた家で~ ② 

2023.07.01

舟木 志子(ふなきゆきこ)

 「奥会津在宅医療センター」は三島町の宮下地区にある。
 2023年1月に発行された機関紙「季刊 奥会津 vol.8」には、「4町村を拠点に、訪問診療・訪問看護を行っています」と書いてある。4町村とは、三島町、金山町、柳津町、昭和村で、県立宮下病院と協働して運営している。利用料金や利用方法など詳しい説明の他、元気で頼もしい医師や看護師の顔写真が掲載されていて、安心できる。また余白にあるたった1行の“つぶやき”には、スタッフの人間味があふれている。
 「在宅医療Q&A」というコーナーの中で「在宅看取り(ご自宅で最期を迎えること)をご本人・ご家族が希望されるときは、希望に添えるように対応しています。」と書かれている。
 
 「グループホーム柳の杜」に入所してから3年ほどたった令和3年春ころから、ハルヨさんはベッドから起きてこない時間が増えていった。食事や薬をうまく摂ることが出来ず、体調を崩し何度も病院に搬送された。そうこうしているうちに足腰が弱ってしまい、自分の足で歩くことは難しくなってきた。
 最後には会津医療センターを経て宮下病院に入院することになった。季節は秋になっていた。ハルヨさんはすっかり弱り、口から食事を摂ることもままならなくなっていた。宮下病院の医師から「看取りの時期が近づいている」と言われた。同時に、どこで看取るのか、施設か、病院か、在宅かと三択を提示された。
 グループホームは看取り可能と言われていたが、あくまでも認知症の方の施設であり、少ない職員の負担を考えてしまった。病院は、折しもコロナ禍で、面会するにも人数や時間の制限があった。しかし在宅での看取りはハードルが高すぎて不安だった。決められないまま時間が過ぎた。ちょうどそのころ柳津町の家には県外に住む由美さんのお兄さん、つまりハルヨさんの長男さんが、退職を機に奥さんとともに春から秋までの間を過ごしていた。コロナのためにほとんど行き来せずに、実家である湯八木沢の家にいた。
 悩んでいるうちに医師からは、残された時間はあまりないことを告げられる。由美さんとお兄さん夫婦は、何度も話し合いを重ね、最終的にハルヨさんの自宅、湯八木沢で介護し看取ることに決めた。「全面的にバックアップする」という、医師の言葉にも背中を押された。

 退院する数日前には、主治医の他、奥会津在宅医療センターの医師や看護師、ケアマネージャー、ホームヘルパーなど、在宅での看取りを支えるスタッフの方が集まり、話し合いが行われた。医師はどんなタイミングで来てくれるのか、訪問看護師やヘルパーは何曜日の何時ころ来て、具体的に何をするのかなど、家族の不安にも丁寧に答えてくれた。「退院調整会議」と言われるもので、家での様子を具体的にイメージできるようになってきた。家族は、ハルヨさんを支える側にありながら、多くの人に支えてもらっていることを感じることが出来た。

 こうして、高いと思ったハードルは、乗り越えられそうな高さとなっていった。
 ハルヨさんが自宅に帰る前の日、部屋には介護用のベッドが設置された。いよいよ明日から在宅での看取りが始まる。

 明日からは家で過ごすと耳元で母に伝える「いっしょに帰ろう」