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須田 雅子(すだまさこ)
南会津町の田島から南郷方面に向かうとき、駒止トンネルを抜けて走っていくと、車窓左手に「え?」と感じさせる建物がある。茅葺き屋根の古民家に洋風の窓、和洋折衷のユニークな存在感。下り坂なものだから、あっという間に通り過ぎてしまう。ランチの看板が出ていたような…。それ以来、気になっていたのが「ゲストハウス・ダーラナ」だ。
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改めて宿泊に訪れると、家の前に赤い木彫りの馬がいる。北欧スウェーデンのダーラナ地方の民芸品で、「幸せを運ぶ馬」として愛されている「ダーラへスト」(ダーラナの木馬)だ。オーナーの大久保清一氏が、かつて世界を旅してたどり着き、料理の腕を磨いたダーラナの名を、レストラン兼ゲストハウスにつけた。
花いっぱいのエントランスでは、北欧の妖精「トロル」が出迎える。天狗のような高い鼻に、大きな目、耳、口をいっぱいに開き、好奇心のかたまりのような顔をしている。庚申塔でよく見かける「三猿」(見ざる、言わざる、聞かざる)とはまったく対照的だ。
壁や扉には植物が明るく躍動的に描かれている。想像上の花を描くダーラナ地方の伝統的装飾画「クルビッツモールニング」で、画家のアニタ・ハンソンさんをスウェーデンから招き、直々に描いてもらったそうだ。
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国土の一部が北極圏のスウェーデンは、冬の日照時間が短い。室内のいたる所に描かれた植物のあふれんばかりの生命力を、長く暗い冬を過ごすダーラナ地方の人たちは、心の拠り所にしているのかもしれない…と、やはり雪に閉ざされる奥会津で思いを馳せる。
他に泊まり客がなかったので、室内の各部屋を探検させていただいた。母屋二階に洋室が3部屋、吹き抜けの囲炉裏のある部屋を抜けた奥には蔵が続いており、二階に二間続きの和室がある。曲家(まがりや)の厩部分をレストランとして大幅に改築したスウェーデン・テイストの母屋とは異なり、内蔵の和室には一昔前の奥会津の佇まいが静寂感とともに残されている。
私は南郷地区に隣接する昭和村に住んでいるが、新鳥居峠が通行可能な季節なら、車で30分で、この非日常の異国情緒を味わえる。遠い国ながらも、冬の厳しさの中で暮らしている点で、どこか近さを感じさせるスウェーデン。
スウェーデン料理
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「ゲストハウス・ダーラナ」では、地元の食材を生かしたスウェーデン料理が食べられる。せっかくならワインでも飲みながらゆっくり味わいたいと思い、一泊二日食事付きの小さな旅に出かけた。
奥会津で洋食のフルコースディナーにありつけるなんて稀だ。キャンドルの灯りのもと、ゆったりとしたひと時を過ごす。
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アボカドにマグロのタルタルとイクラをのせた一品目から、提供される一皿一皿の美しさとおいしさに感激し続ける。
特に気に入ったのは、アスパラがかわいらしく並ぶ自家製テリーヌと牡蠣のグラタン。伊勢海老の殻でとったアメリケーヌ・ソースを絡めながら舌鼓を打ち、ワイングラス片手にうっとりと室内のスウェーデン装飾を眺める。
クリームスープには、なめことムキタケ。ご近所さんが山菜やきのこ、畑の野菜など、地元のおいしい食材を差し入れしてくれるそうだ。
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クリタケのソースとともにいただく国産牛のステーキと同じタイミングで出された、じゃがいもとアンチョビのグラタンは、スウェーデン伝統の家庭料理「ヤンソンの誘惑」だ。肉や魚を食べない菜食主義の宗教家であるヤンソン氏さえ、この料理には抗えなかったという言い伝えがあるという。
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朝食のメイン「キャベツ・プディング」もスウェーデンの家庭料理だ。飴色になるまで炒めたキャベツと挽肉のミートローフに、甘酸っぱいリンゴンベリー(コケモモ)のジャムが添えられている。
オーナーの大久保清一さんは、スウェーデンで料理修行をし、帰国後、東京の西荻窪で北欧料理店「リラ・ダーラナ」をオープン。大久保さんは、現在、六本木にある「リラ・ダーラナ」(西荻窪の店を六本木に移転)の創業者でもある。
スウェーデンで共に過ごした友人たちと、南会津町南郷地区の古民家をスウェーデン風にリノベーションし、1992年に「ゲストハウス・ダーラナ」をオープン。30年にわたり、サイクリング、釣り、スキーなどのアウトドア・アクティビティ、そして、おいしいおもてなしを楽しみに、県内外から多くの人々がダーラナにやってくる。
「ゲストハウス・ダーラナ」