【むら歩き】 三島町 荒屋敷遺跡の木器研究 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

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【むら歩き】 三島町 荒屋敷遺跡の木器研究 

2023.11.01

菅家 博昭(かんけ)ひろあき)

 三島町宮下地区に隣接(桑原字荒屋敷所在)した荒屋敷遺跡は縄文時代晩期(約2400年前)を主体とする遺跡で、出土した植物遺存体は現在も分析調査が行われ新知見を提供している。
 昭和60年(1985)10月から試掘調査、昭和61年(1986)6月4日~12月13日が一年次の調査、昭和62年(1987)7月7日から10月27日まで第二年次調査。遺物の整理は試掘調査の冬季から平成2年(1990)3月まで5か年間、三島町名入の小柴吉男氏(2010年9月逝去)らにより行われた。
 昭和61年11月8日小雨の日、発掘調査の現地説明会が開催された。手許に、参加した際に配布された資料の冊子がある。85番の押印がある。200名ほどが参集した(『荒屋敷遺跡発掘秘話』2012年)。
 まず出土した繊維加工品の巻紐製品9027については、鈴木三男氏・佐々木由香氏・能城修一氏らの同定でカバノキ属の外樹皮(コルク層)と特定された(2013年~2015年)。出土時点ではカラムシ(苧)ではないか?と言われ、当時昭和村で『からむしと麻』の撮影をしていた民族文化映像研究所の姫田忠義氏・伊藤碩男氏らも昭和61年10月、遺跡に立ち寄り許可を得て巻紐製品を撮影している。
 この資料は鈴木三男氏が自著の『びっくり!!縄文植物誌』(同成社、2020年)で分析調査の経過を示している(110ページ)。また赤漆糸については、2本撚りで、透き漆で固められたあとに赤漆がかけられている。これはカラムシを含むイラクサ科と同定した(132ページ)。
 愛知県在住の尾関清子氏は、縄文時代のアンギン(編布)研究で、この巻紐製品をもとに荒屋敷編具を製作した。著書『縄文の衣』で1996年に学生社より刊行されたが、増補改訂版が雄山閣から2020年に刊行している。また『縄文の布』『増補版・縄文の布』(雄山閣、2012年・2018年)では、列島各地の編布・織物・圧痕資料を修正している。

 栗島義明氏は発掘調査担当者の小柴吉男氏らの協力を得て調査時の図面等を分析した(「浅鉢製作と木製品の管理貯蔵 -荒屋敷遺跡に見る危機回避システムとしての木製品貯蔵形態-」(『環境史と人間』第1冊、明治大学学術フロンティア紀要、2007年)。
 とくに木製品の集中区の図面・写真を検討し、各種木製品の空間的関連性について分析をした。木製品の製作工程の未製品が一括的に集積されてあることを検討した。
 これは石器加工の難易度と結びつけられた「水漬工程品」(山田昌久「低湿地遺跡にみる縄文人の技術」『木が語る縄文ライフ』2005年)との評価が提示されたが、栗島氏は、欠損・破損にともなう生活・生産用具(浅鉢・丸木弓・石斧柄・竹籠等)の効率的で円滑な確保・補充を目的とした管理的貯蔵、換言するならば社会的な危機回避システムの観点から再評価すべきであることを提唱している。。
 加えて「縄文時代の木製品」(『縄文時代の環境への適応と資源利用』雄山閣、2022年5月刊)でも簡潔に荒屋敷遺跡の木製品について述べている。