「魔法の文学館」はいちご色の世界 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

オピニオン

「魔法の文学館」はいちご色の世界

2024.09.15

長崎 キヨコ(ながさききよこ)

「本をひらけば、たのしい世界」という言葉が出迎えてくれる文学館は、なぎさ公園の丘の上にあります。児童文学作家・角野栄子さんの「魔法の文学館」は、東京都江戸川区南葛西に昨年11月に開館しました。
  隈研吾さん設計の建物は、角野さんの希望や意見を取り入れた滞在型の居心地の良い魔法の世界です。白い外観の建物の中に足を踏み入れると、一面いちご色。物語の舞台となったコリコの街をモデルにした館内。通路の壁にシルエットの猫が歩いていたり、小さな窓を開けると絵本がパラパラと動き始めたり。大人も子供も、そんな仕掛けの在る小窓や穴を見つけるたびに、自分が魔法使いになったような気分です。
 そして、いちご色の街並みはそのまま本棚になり、たくさんの本が並び椅子があります。
「本棚の隙間を散歩するように好きな本を見つけて」という角野さんの願いが込められた蔵書は1万5千冊。今後も増える予定です。ふと目に留まる出会いを大切にしたいと、敢えてジャンルを分けずに並べているという。季節が良ければ屋外テラスや芝生の上で本が読めるのも嬉しい。角野さんの著作だけでなく、日本や海外、中学・高校生向けや大人の本も並んでいます。
  館内には解説や注意書きなどはなく、来館者はあちこちで遊んだり、寝そべったりしながら本を開いていました。
「黒猫シアター」は、インタラクティブな映像プログラムによる参加型シアターで、キャラクターとの会話も楽しめます。子供だけではなく、大人もビックリのシアターでした。
  2階にある「栄子さんのアトリエ」は、角野さんの仕事場を模したコーナーで、お気に入りの小物に囲まれた机・椅子に坐って栄子さん気分を体験できます。トレードマークのワンピース・アクセサリーの展示もあります。その奥には栄子さんのこれまでの写真・ビデオの上映があり、角野作品の生まれるまでを知ることが出来ます。
  隣のギャラリーでは企画展を行うとのことですが訪ねた日は残念ながら行われていませんでした。
 3階のカフェは旧江戸川を一望できる見晴らしの良い空間で、作品に登場するメニューが楽しめます。私は「おばけのアッチ」に登場する双子のねずみ、チとキのサンドイッチを食し、幸せな時間を過ごしました。
 「魔女の宅急便」のモデルになった12歳の娘さんが描いた魔女のイラストも見ることができました。世界各国で出版された「魔女の宅急便」も展示され、各国の描かれ方の違うキキにお国柄を感じました。迎えてくれるスタッフの服装もいちご色のスモック風ワンピースで、どっぷりと角野ワールドに浸ることが出来た一日でした。
  この文学館を企画し、開館運営してくれている江戸川区に感謝し、多くの子供たちが足を運んで、たくさんの本に触れて本の世界に入り込んでほしいと願って、文学館を後にしました。
※文学館は日時指定の予約制です。

角野英子のおすすめ本です。
『ルイジンニョ少年」1970年出版 2019年復刻 ポプラ社
『ラストラン』2014年出版 角川文庫
『ナーダという名の少女』2014年出版 KADOKAWA
『トンネルの森1945』2016年出版 KADOKAWA
『わたしのもう一つの国』2022年出版 ポプラ社