戦争と図書館の役割 | 奥会津ミュージアム - OKUAIZU MUSEUM

オピニオン

戦争と図書館の役割 

2023.07.01

長崎 キヨ子(ながさききよこ)

 ロシアによるウクライナ侵攻戦争が始まって1年半近くになるが、収束が見えない現状です。世界には内乱戦争が続いている国もあります。このような戦争下での図書館や本、出版の現場はどうなっているのか、憂える日々です。
 戦争は人々に直接的なダメージを与えるだけでなく、民族の尊厳や文化をも根こそぎ破壊してしまいます。人間の愚かな行為、戦争が本・図書館に大きな影響を与えてきました。ウクライナの図書館、出版界はどうなっているのか、大変心配になります。
 第二次世界大戦終結までに、ナチス・ドイツは発禁・焚書によって1億冊を超える書物をこの世から消し去りました。対するアメリカは、戦地の兵隊たちに本を送り続けました。その数およそ1億4千万冊。
 本は武器であるという言葉があります。ヒトラーは無類の読書家で、本の力をよく知っていたのでしょう。だからこそ、1億冊もの本を燃やしたのではないでしょうか。
 アメリカの図書館員や戦時図書審議会構成員もまた、本の力を知っていたのでしょう。だからこそ、1億4千万冊もの本を戦場に送りました。
 今の時代こそ、みんなで本の持つ力、図書館の必要性を再認識し、行動することが問われているではないかと強く思っています。
 今までの戦争で取り組まれたことを著した本を紹介します。私たちも歴史に学び、考える必要があります。

「ナチスから図書館を守った人たち:囚われの司書、詩人、学者の闘い
ディヴィッド・フィッシュマン 著
羽田詩津子訳 原書房 2019

ナチスは迫害行為を正当化するため、ヨーロッパ全土のユダヤ人から蔵書や文化的財産を略奪し、ドイツ国内のユダヤ民族図書館へと移送した。しかし、ドイツに送られるのはほんの一部。最も激しいホロコーストがあったリトアニアの首都ヴィルナ(現在のヴィルニュス)で、自分たちの文化が踏みにじられるのを許すまじとした通称『紙部隊』知識人ら40名のユダヤ人たちが命を懸けて戦った知られざる歴史の記録。

「疎開した四〇万冊の図書」
金髙謙二 著  幻戯書房 2013

1944年から45年にかけて、旧都立日比谷図書館の蔵書のおよそ40万冊が戦禍を逃れるため疎開した史上空前の大移動。一年におよぶ疎開は過酷を極めた。図書館員をはじめ学生たちが大八車を押し、あるいはリュックを背負って、約50㎞離れた奥多摩の多西村(現あきるの市)や埼玉県志紀町(現志木市)などに何度も足を運んだ。その後1945年5月25日、米軍により日比谷図書館は全焼する。

「戦地の図書館:海を越えた一億四千万冊」
モリー・グプティル・マニング 著
松尾恭子 訳  東京創元社 2016

第二次世界大戦中、米政府は米軍兵士が戦争を戦い抜く勇気と不屈の精神を持てるように1億4千万冊以上を無料で供給した。全国の図書館員らが、「本は武器である」という考えのもと、寄付された本を兵士に送る戦勝図書運動を展開。出版業界の人々は戦時図書審議会を設置し、「兵士文庫」を出版し、あらゆるジャンルの本を世界中の戦地に送り届けた。

「3万冊の本を救ったアーリアさんの大作戦:図書館員の本当のお話」
マーク・アラン・スタマティー 著
徳永里砂 訳  図書刊行会 2012

「バスラの図書館員:イラクで本当にあった話」
ジャネット・ウィンター 著
長田弘 訳  晶文社 2006

2003年、イラク戦争時、バスラ中央図書館主任司書のアーリアさんは、自分たちの歴史と文化を守るため、近所の仲間たちと共に、とてつもない大作戦に踏み切った。蔵書の70%を救った大作戦とは‥‥。図書館消失はその9日後だった。

「シリアの秘密図書館:瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々」
デルフィーヌ・ミヌーイ 著
藤田真利子 訳   東京創元社 2018

「戦場の秘密図書館:シリアに残された希望」
マイク・トムソン 著
小国綾子 訳   文溪堂 2019

2015年シリア内戦下の町ダラヤでは、市民がアサド政権軍に抵抗して籠城していた。日常的な空襲、食料・物資の絶対的不足…。そんな絶望的な状況の中、ダラヤの若者たちは瓦礫の中から本を取り出し、『秘密の図書館』を作った。明日への希望をつなぐのが図書館の本だった。

 いまもウクライナだけではなく世界各地で武力が行使されています。戦争を起こすのは人間です。しかし、それ以上に戦争を起こさない努力ができるのも、私たち人間ではないでしょうか。
 図書館がなくなるとき、それは、私たちの社会から文化が滅びる時です。いったい誰がそんなことを想像することができるでしょうか。今、私たちが、我が国のみならず世界中を注視して、考え、行動する必要があると強く思う日々です。